美味い食べものっていうのは、その場その場のシチュエーションに左右される。
空腹時など、干からびたキュウリでも、しなびたかりんとうでも、噛みしめれば感動のうまさだ。
だがどんな食べものでも「肉」を前にすると色褪せてしまう。
肉の魔力とは恐ろしい。
唾液がこみ上げるジューシーな匂い、ガッツリ食いちぎる充実の噛みごたえ、飲み込む際に感じる”のどごし”からの、はちきれんばかりの満腹感。
どれをとっても肉は完璧だ。
「この豆腐は最高にうまい!」
という人と、ぜひとも飯をご一緒したい。わたしは肉を専門とする。なのであなたは、わたしの分も豆腐を召し上がれ。
これで喧嘩せずに2人前の肉が食えるということだ。
「松茸の上品な香りよ!」
ですよね。どうぞわたしの分も松茸を差し上げましょう。わたしは肉のほうで結構ですので。
よろこんで、高級松茸を放棄しようじゃないか。
このように、肉に勝てる食べものはない。
肉の持つ圧力というかパワーというか、他の食べものにはない凄みが肉にはある。
そんな肉好きなわたしが、血眼になって買い漁る食べものがある。
それは「うずらのたまご」だ。
*
うずら玉子は小さい。それゆえ、ポンポン口へ放り込むことができ、あっという間に一袋が終わってしまう。
しかし味付けが好みではない場合、無理やり誰かに食べさせるなどして消費することとなる。
コンビニ、スーパー、デパート。あらゆる食料品売り場でうずら玉子を物色し続けた結果、唯一無二のうずらと出会うことができた。
株式会社千年屋が販売する、味楽乃里シリーズの一つである「塩だれたまご」だ。
この出会いは突然で、友人からプレゼントされたことがきっかけ。
「これ、美味しいから食べてみて」
クッキーやチョコレートではなくうずら玉子とは、また風変わりなギフトよ。
だが手軽にタンパク質を摂取でき、ローカロリーで安価なゆでたまごは、運動をしている人ならばもらって嬉しくない人はいない。
さほど味に期待もせず、まずは一つ、口へと放り込む。
モグモグ。
・・・・。
こ、これは、今まで食べてきたうずら玉子と決定的な違いがある。
ーーこのたまごは、塩味だ!!
そう、この違いはデカい。
一般的なうずら玉子は、醤油やダシの味付けだったり、燻製だったりする。そのため、どこかしつこさが残り、次から次へと食べる気にならない。
たまご、たまご、コーヒー。たまご、コーヒー、コーヒー、たまご。
この繰り返しで食べ進めるのが通常。
だが今回の「塩だれたまご」は違う。
たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、たまご、コーヒー。
こんなにも連続でたまごが入るなど、前代未聞の出来事だ。それほど、このうずら玉子は美味(びみ)であり手が止まらない。
どんな麻薬的成分が入っているのか、裏面をチェックする。
まぁ想像通りというか、意外な調味料は見当たらない。
しかしなんともかわいそうなのは、裏面に記載された文字のほとんどが「ご注意ください」の説明書きであることだ。
「丸ごと食べるとのどに詰まるので、ご注意ください」
「そのまま電子レンジで加熱すると破裂するので、ご注意ください」
「開封時に調味液が飛び散るので、ご注意ください」
「玉子にクレーター状の凹みがありますが、品質に異常はありません」
「個包装内に空気が入っていても、品質に影響はありません」
「開封後はお早めにお召し上がりください」
「ごみに出すときは、市町村の区分にしたがってください」
丸ごと食べるとのどに詰まるなんて、今どき、子どもでもわかるだろう。
とは言え、こんにゃくゼリーやモチをのどに詰まらせる事故は絶えないわけで、何というか、とにかく気をつけてもらいたい。
個包装を開封するとき、たしかに汁がこぼれそうになる。実際にわたしは汁を飛ばし「しまった!」となった人間だ。
だがそんなこと、恥ずかしくてクレームなどできまい。
玉子にクレーター状のへこみがあるから「異常だ!」と思う人がいる、ということか?
その人はいったい、煮込み玉子がどれほどまでにツルツルでまん丸だと思っているのだろうか。
ーー日本人て、バカなのか。
*
本日は、うずらのたまご22個×2袋を完食した。罪悪感はさほどない。
それどころか満腹と満足に包まれ、肉を食うよりも安心かつ幸せである。
金額的にも安価で手軽。そしてボリュームも十分。極めつけは「満腹時の不快感の違い」だ。
肉の満腹はとにかく苦しい。
だが、うずら玉子の満腹は心地よい。
なお「コレステロールがどうのこうの」という意見は一切受け付けない。
コメントを残す