馬と白鳥

Pocket

 

友人のミヤケン(仮名)は、巨大な風船のように丸く膨らんだ男だ。あわよくば風に乗って浮きあがるんじゃないか、というほどの見事な丸さ。

 

そもそもミヤケンとの出会いは射撃。

そして狩猟のシーズンになると彼は豹変する。

 

ある年の北海道での出来事。

ミヤケンが「馬」となって猟場に現れた。頭はウマ、首から下は茶色の全身タイツといういでたちで、冬本番の北海道の山地へ降り立ったのだ。

ちなみにその前の年は白鳥だったらしい。

 

「なんで馬の着ぐるみなの?」

と聞くと、

「エゾ鹿とか近づいてくるかな?と思って」

というありえない発想からヒントを得たようだ。

 

近づいてくるはずがないのだが、こういうあたりがミヤケンらしい。

ちなみにミヤケンは、ウェブのデザインや広告、イベントやキャンペーンなど何でもやってしまう会社の社長であり、クリエイティブな人間であることは間違いない。

 

「馬はわかった。じゃあ昨年の白鳥は?」

純粋な疑問をぶつける。

「鳥の大群に入って行けるかの実験」

ーーなんのこっちゃ

 

結果を尋ねると、

「何万羽も鳥がいる畑みたいなところに突入したんだけど、空が真っ黒になるくらい全部の鳥が飛び立って回ってたよ」

・・・。

 

近くに陣取っていたバードウォッチングの人たちは、温かい目で見守っていた鳥の大群が一斉に飛び立ったわけで、それは驚き狼狽する。

ミヤケンの「白鳥」が原因で飛び立ったとなると、バードウォッチャーに殺されかねないので、車で素早く逃げ帰ったとのこと。

 

他にもいろいろな武勇伝を持つミヤケンだが、昨夜の会話で意外な一面を見た気がする。

それは彼の息子の話だった。

 

 

辰之助は美男子の象徴ともいえる、中性的な顔の持ち主。

肌は透き通るような白さで、男にしておくことがもったいないほど美しいスタイルだ。

(トンビが鷹を生んだか)

などと感心していたが、なんと父親であるミヤケンもその昔、スレンダーな美男子だったらしい。

 

(人間、太るとここまで変化するものなのか)

膨らみを70パーセントくらい削ってみると、確かに欧州チックな顔立ちではある。

しかも、神聖なる猟場で馬や白鳥のコスプレをするおバカキャラが、当時はバリバリのヤンキーだったのだそう。

 

(人生、どう転ぶかわからないもんだ)

 

その後、アルバイトをしながら浪人し、関西の有名大学へ進学。卒業後は地方の広告代理店へ就職するも周囲の無能っぷりに辟易し、自ら起業に至る。

そんなミヤケン、

「社会に出たら実力の影響が大きい。実力さえあれば高校も大学もいらないと思ってる」

と言う。私もまったく同感だ。

「勉強はやりたいと思えばいつでもできる、趣味みたいなもん」

たしかに。

「大学行きたいなら、本気で勉強すれば私立なら一年で受かる。ただ日本の大学は、役に立たない人材しか社会に送り出さないけどね」

これが本当に、あの白鳥の着ぐるみで鳥の大群へ飛び込んだ人間の発言なのだろうか。

「だから息子には、俺の生き方から得たことを伝えてる。オマエにはこういう素質や可能性があるぞ、って」

地方出身のミヤケンは、東京だからこそチャンスがたくさん転がっている、とも言う。

 

勉強とビジネス、「金を稼ぐこと」を考えながら生きることが大切だと語るミヤケン。なぜ学校でそういうリアルな教育をしないのかについて、ド正論を吐いた。

「学校の先生って、社会に出たことない人がほとんどだから」

正にこれだ。

自分が経験したことのない話など、他人にできるわけがない。

 

高校1年生の辰之助はいま、大手プロダクションに所属し芸能活動に励んでいる。きっかけとなったのは小学生の頃のスカウト。

「原宿で何度もスカウトされるってことは可能性あるってことだと思ったから、俺が勧めた」

母親が息子可愛さに応募するケースはよく聞くが、スカウトの事実から父親が背中を押すのは珍しい。

 

中学3年の頃から辰之助自身にプロ意識が芽生え、

「芸能で生きていく」

とハッキリ口にしたのだそう。

周囲の同級生たちは大人に敷かれたレールを着々と進むなか、15歳の辰之助はすでに自分のビジョンを描き、まだ見ぬ未来へと向かっていた。

 

ーーやりたいことで生きていくって、いいよな

 

父親のミヤケンがそうであるように、息子の辰之助も自ら好きなように人生を謳歌している。

そんな未来溢れる辰之助に対して、他人である私が願うことはただ一つ。

 

「頼むから、太らないでくれよ」

 

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です