卓球コラムニストの伊藤条太さんが書いた、競技におけるキャリアを上回る、魅力的な生き様を貫く卓球選手の記事を読んだ。
その選手の名は岩城禎(ただし)さん。
35歳にして、初の全日本卓球選手権男子シングルスへの出場を決めた。
コラムのタイトルも強烈で「ある卓球ストーカーの全日本卓球/弁護士の道も公務員の職も捨てて・・・」という、かなり興味をそそられるもの。
思わずかじりついた私が読後に抱いた感想は、
「誰かのことをこんな風に書いてみたい」
だった。
岩城さんすごい、卓球おもしろい、ではなくて誠に申し訳ない。
だが、私にも似たようなタイトルをつけられそうな知人がいることを思い出したのだ。
*
タイトルをつけるとしたら、
「ある自衛官ストーカーの人事予想/パイロットの道も証券マンの職も捨てて・・・」
これしかないだろう。
どこか階段を踏み外したような、いや、ボタンを掛け違えたような微妙なオーラを纏いつつ、いつもニコニコ自信満々に生きているオッサンだ。
片田舎の三男坊として甘やかされて育ったポールは、かつて知能指数130(仮)の神童と呼ばれた。
中学生の頃「将来はパイロットになる」と決め、夢の実現に向けた確実かつ効率的なルートとして、大学までエスカレーターで進める同志社高校を受験する。
エアラインパイロットになるための王道といえば、航空大学校への入学。
航大の受験資格は大学2年(一般教養)修了が条件のため、「一般的な大学受験」という無駄な時間を航大独自の特殊な受験勉強に充てるべく、エスカレーター式の高校を選んだのだ。
同志社高校は京都府内でも有名な進学校だが、友達も少なく勉強くらいしか取り得のない彼は成績上位で入学を果たす(予想)。
予定通り同志社大学へ進学し、大学2年を終えたポール。
いよいよ夢への第一歩となる、航空大学校を受験することとなった。
人生山あり谷あり。
学科試験はトップでくぐりぬけるも、最終選考である「航空身体検査」で足止めされる。
今でこそ航空身体検査の試験対策を教える予備校があるが、当時はほぼブラックボックスのため不合格の理由すら分からない。
そして年齢制限ギリギリまで受験し続けるも、彼が航大の門をくぐることはなかった。
「まぁ、俺がパイロットになってたら、飛行機落としてたかもしれないしな」
そんな憎まれ口をたたくポールの目には、キラリと光るものが(予想)。
ずいぶん経った後日、VR(ヴァーチャルリアリティ)で体験できるフライトシミュレーションゲームがあることを知り、普段ゲームなどしないくせにプレステ4とVRセットを購入したポール。
「空母から離陸したとき、俺はパイロットになった!」
まったく、往生際がわるいったらありゃしない。
・・おっと、これでは伊藤さんが描く岩城さんのテイストからズレてしまう。
岩城さんがいかに才能豊かで魅力的な人間であるか、そして念願かなって掴み取った全日本の大舞台までを伝える伊藤さんのコラムに感動を覚えたわけで、主人公をこき下ろすつもりなど毛頭ない。
方向修正しよう。
大学を卒業したポールは、これ見よがしに一流証券会社へ就職した。
出鼻をくじくようだが、私はこの進路についてかねてより疑問を抱いている。
あれほどまでにパイロットになりたかったのだから、自社育成枠のある航空会社や航空自衛隊の一般幹部候補生の飛行要員として入隊するなど、パイロットへの道は閉ざされていないはず。
しかし、男らしくけじめをつけたのだろうか(フライトシミュレーションゲームは置いといて)。
同期のワナにはまり新人研修の時点で始末書を書かされるなど、ツイてないポールは数年後に転職、ターンアラウンドマネージャー(企業再建のスペシャリスト)として手腕を発揮する。
こんな華々しい自慢げなキャリアに興味も魅力もなにもない。
実はポール、強烈な自衛隊オタクなのだ。
女性より自衛官(男)が好きと豪語する彼は、お声がかかれば北海道だろうがどこだろうがすっ飛んで行くほどの自衛官ストーカーだ。
そしてポールの生きがいともいえる、自衛隊人事予想ブログ。
これは別名「自衛隊人事予想のデスノート」と呼ばれ、ここで名前の挙がった自衛官は確実にそのポジションを掴み損ねる
まさにポールによって昇任をはばかられ、キャリアを殺されると言ったところ。
その外し屋、いや、殺し屋ポールが、順当に第36代航空幕僚長の予想を外したのだが、問題はその後の対処だった。
自ら「スキンヘッドにする」と宣言しておきながら、ふたを開けてみれば3ミリの坊主頭ではないか。
この女々しさたるや如何(いかん)。
そして今度は、次期統合幕僚長について彼の予想を公開した。
統幕長人事があるとすれば、この1年くらいが濃厚。
自衛官を愛するあまり、無邪気に彼らの出世を邪魔するポール。
統合幕僚長は自衛隊制服組トップの人事であり、そんな重要なポジションを占う彼の「デスノート」は、今回も本領発揮となるのかが楽しみだ。
*
伊藤さんは現在、小中学生の卓球指導をされている。
ご自身も全日本マスターズなどで活躍された経歴を持ち、実践のみならず文字を通じて日本の卓球界を盛り上げている。
ポールの自衛隊人事予想も、デスノートなどという不名誉な愛称ではなく、バイブルくらいのありがたい呼び名となることを期待したい。
そして結局のところ、私が誰かについて書いてもあまり美しくは伝えられないことが分かった。
だがどちらかというと、私の実力不足というよりは人選ミスだったのかもしれないが。
ちなみに、ポール本人からは何一つ裏を取っていないので悪しからず。
Illustrated by 希鳳
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