シェフが食いしん坊な店、大体「当たり」

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ハンバーグは断然レア。

そんな私が足を運んだ、レアハンバーグの美味い店がある。

 

そもそもレアハンバーグというものは難易度が高い。

なぜなら、レアで提供するには圧倒的な鮮度のひき肉が必要だからだ。

 

このシビアな戦いに挑むシェフは、笑顔が可愛いみやぞん。

チャームポイントのとろけそうな目をさらに細め、満面の笑みでレアバーグを完成へと導く。

 

レアバーグに油断は禁物。

最悪なのは火が通り過ぎることだ。

もちろん、中身が真っ赤でも困る。

 

その微妙なレア具合を、このみやぞんは見事にやってのけるのかーー

 

数分後、目の前にそっと注文の品が置かれた。

 

私は慎重にハンバーグへナイフを入れる。

と、その瞬間、

ジューシーな肉汁がデニムに飛び散った。

 

ーーほほぅ、やるじゃないか

 

先制攻撃はバーグからだった。

私は冷静に肉汁を拭き取り、改めて肉塊と対峙する。

 

それにしてもこのバーグは俵のように太っちょでまん丸。

よって、中心部と外側の火入れのバランスは難しいはず。

 

私は思い切って、ど真ん中を割るように一気にナイフでぶった斬った。

 

すると、バーグの断面は美しいピンク色で溢れている。

さらに断面図はゆで卵のよう。

 

ゆで卵でいうところの卵白、つまり外側の表面は焦げ目付きで通常バーグの装い。

だが、ひとたびバーグを開き卵黄部分をさらけ出すと、そこは淡いピンクのレアな世界が広がっているのだ。

 

みやぞんはこう言う。

 

「火加減、というか鉄板の温度ですね。

肉の水分を飛ばさないように、ジューシーに焼き上げる温度をキープするんです」

 

「お肉ソムリエ」と「健康ミートアドバイザー」の資格を持つ彼は、肉を食べた客が笑顔になることを目指し、調理科学にも精通する。

 

うーーーん

 

これは唸るしかない。

美味いとかジューシーとか、文字で表現するのがもったいない。

 

とにかく無言で、せっせとレアバーグを口へと運んだ。

 

 

そういえば、店の名前が「粉もの」を連想させるのに、なぜ肉がメインなのだろう。

その疑問をみやぞんにぶつけてみた。

 

「じつは最初、しゃれたお好み焼き屋をやるつもりで付けた店名なんですよ」

 

なるほど、それは納得。

確かにメニュー後半で申し訳なさそうにお好み焼きが登場する。

 

「でも金額(単価)の問題などから、肉メインに切り替えました」

 

なぜ、よりによって肉なのか。

 

「みんなが好きな食べ物、というテーマで考えたんです。

この辺りで美味しいステーキやハンバーグを気軽に味わえる店がほとんどない。

そこで、みんながカジュアルに味わえて、でもめちゃくちゃ美味い肉料理を出そう、と勉強を始めました」

 

みやぞんは既存の取引先である肉屋3社を使い、味と肉質の違いを研究した。

それが分かるようになったら、仕入れたい部位をピンポイントで注文できる業者と契約。

なかでも「阿波牛のイチボ」が絶品だったため、ステーキメニューの目玉として取り入れた。

 

連日ソールドアウトの人気商品、イチボのステーキ。

そのラスト1皿を、私は運よくゲットできた。

 

たしかに柔らかい。

それでいて肉特有のしっかりとした噛み心地を感じる。

柔らかくも満足させる肉肉しさを楽しみながら、さっさとイチボを平らげた。

 

 

しかし私の興味は肉ではない、お好み焼きにある。

お好み焼き屋からステーキやレアバーグの店へと変貌を遂げたみやぞん、俄然気になるのは本家本元のお好み焼きの味だ。

お好み焼きの本場・大阪で修業を積んだ彼の腕前とやらをみせてもらおうか。

 

そこで私は王道中の王道、豚玉を注文した。

豚玉を食べればお好み焼きのすべてが分かる。

シンプルゆえに舌をだますことはできない。

 

・・と、ここで残念なことにタイプアップ。

閉店時間がとうに過ぎているため、お好み焼きをドギーバッグに詰めてもらい夜食として持ち帰った。

 

みやぞんはその日のうちに食べることを期待しただろうが、私は翌日に取っておいた。

 

なぜなら翌日、冷めた状態でどのくらい美味いのか試してみたかったのだ。

 

ーー翌日

冷めた豚玉のフタをいそいそと開ける。

 

いい香りだ。

 

まずは豚玉を箸で切り分ける。

 

豚肉の表面がカリッカリに焼いてあるので、サクッと簡単に箸が通る。

そのくせ口溶けは滑らかで決して硬くはない、なんとも絶妙な豚バラ。

 

 

余談だが、ナポリピッツァ職人たちから、

 

「粉ものはいかに生地にこだわるかで美味さが決まる」

 

ということを散々教え込まれた私は、生地にうるさい。

 

そんな生地マニアからしても、パサつきやグズグズさを微塵も感じさせない驚きのクオリティ。

さらによく噛むと、細かく刻んだ豚肉が生地に練りこんである。

 

豚肉の風味と食感を出すためかーー

 

みやぞんの「お好み焼き愛」の深さを思い知る。

これには脱帽だ。

 

味はというと、出来上がりからずいぶん経ったにもかかわらず、作りたてと比べて遜色のない、新鮮で風味豊かなお好み焼きのままだった。

 

これはもしかすると、出来たてよりも常温くらいに冷めていたほうが、素材の味を感じられるのかもしれない。

 

お好み焼きの新たな発見だ。

 

 

「結局、僕が食いしん坊なんです。

いろんな食材をいろんな味付けしてみる。

それで美味しかったらメニューに入れるので、僕が食べたいものを探す旅です」

 

ニコニコしながらみやぞんは言う。

たしかに、自分が食べたいものならば胸を張って客へも出せる。

これこそが芸人、いや料理人根性と言おうか。

 

 

明日はどんな味を食べさせてくれるのだろうーー

 

みやぞんの旅はつづく。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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