今日の東京は寒い。
空を見上げると一面グレー、どっちを向いてもグレー以外の色は見当たらない。
今にも雨が降り出しそうな雲行きだが、出かける予定のない私にはどうでもいいことだ。
たとえば、黒色の服が好きだとか、ダークグレーで部屋を統一しているとか、暗い色を好む人は割と多い。
だからといって気持ちが暗くなるわけでも、性格が暗いわけでもない。
だが空が曇っていると、どうして気持ちは沈むのだろう。
*
社労士として区役所で業務委託を受けていたときのこと。
その日は台風による大雨強風、外出をする変わり者などいないだろうという天気だった。
しかし準公務員の立場にある私は、8時半前には登庁し仕事に備えなければならない。
こういうとき公務員は、非公務員にはない特別な職責がある。
国家公務員法第96条では、
「すべて職員は、国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務し、且つ、職務の遂行に当たっては、全力を挙げてこれに専念しなければならない」
と定めている。
似たような内容で憲法第15条第2項でも、
「すべての公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」
と謳っている。
実際、災害時に避難する一般人を誘導するのは公務員。
自分たちにも家族や守るべき人がいるにもかかわらず。
そして台風の際は避難場所を設営し、休日だろうが時間外だろうがすぐに対応できるよう自宅待機をする。
そのためにも職員寮は、役所から徒歩圏内に用意されている。
私はあくまで年金相談員としてここにいるだけで、災害時の云々には関係のない立場だ。
しかし、共に仕事をする仲間がそのような立場にあると、なかなか他人事とも思えない。
「さすがにこんな日は、相談に来る人いないよね」
職員らと談笑していたその時、
「あのー、いいですか?」
振り向くと全身ずぶぬれの女性が立っている。
この嵐のなか、わざわざ相談にやってきたのか?
「もちろんですが、その前にタオルかなにかお持ちしましょうか?」
そう言わざるをえないほど、雫が滴っている。
髪の毛や衣服を乾かし、いざ話をはじめる相談者。
「今日、調子がよかったんです」
そう、これは障害年金の相談だ。
彼女は統合失調症を患っており、一か月のほとんどを自宅で寝て過ごしている。
月に1度の「調子のいい日」を見計らい、病院へ行ったり所用を済ませるのだそう。
そしてその「調子のいい日」がよりよって大荒れの今日だった、ということだ。
ーー過去にもこんなことあったな
その日もたしか台風が接近していた。
精神疾患をもつ相談者が、ビニール部分が吹き飛んで骨だけになった傘を片手にやってきた。
普通ならばこんな悪天候でわざわざ外出する必要はない。
区役所は月曜から金曜までやっているわけで、明日来たところで大差はないだろう。
それでも精神疾患をもつ人にとっては、月に一度の外出できる日であり、その日を逃せば来月まで持ち越しとなる。
いま思うと、天気の良いピクニック日和には障害年金(精神疾患)の相談が少ない。
よりによって荒天をついて相談にくるのは、もしかすると気圧の変化も影響するのだろうか。
低気圧で頭痛を訴える人がいるなか、何らかの反作用がおきているのか。
彼女と私とのあいだで支離滅裂な会話がつづく。
統合失調症特有の幻覚や幻聴によるものだ。
ときには身体症状として、あるはずのない変化を感じることもあり、それらを体感幻覚や幻嗅、幻味と呼ぶ。
それでも少しずつ方向性を出し、ゴールへ導く。
とにかく基準は相談者。
自分が基準ではない、相談者の土俵に立たなければ進まないのだ。
噛み合わないなりにアジャストさせていくことが、精神疾患による障害年金相談でもっとも必要なスキルだろう。
まだ午前だというのに窓の外は真っ暗。
木々は大きく傾き、凄まじい勢いで雨が飛ぶ。
こんな「よりによって」の午前中、まるで噛み合わない話を続ける私たち。
見方を変えると「だからこそ」の、非日常的な時間を過ごしているのかもしれない。
ーー沈みがちな気持ちとは裏腹に、貴重な過去を思い出させてくれたグレーの空だった
この状況で申請までリードしていくのはしんどいですね。自分だったら心が折れそうです。今でも障害対応時、師匠の教えがスターウォーズのオビワンのように頭にこだましますw
そう言ってくれてありがと😉
私は教え方うまくないので、絶対嫌な奴だと思われたと思う。
でもそれが少しでも役に立ってるなら嬉しいわ。
何をおっしゃいますかw
時間外に残ってまで教えてくれたのは
後にも先にも師匠だけです。
感謝しております。
ありがとう、その時じゃなくて今になって感謝されることは嬉しいね。
またいつか、一緒に仕事する機会があればよろしくね。