モトクロスという残酷な競技と、柔術というSDGsな競技

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先日、生まれて初めて「モトクロス」のレースを現地観戦したわたし。

そもそも、モトクロスという単語は知っていたが、具体的に説明しろといわれたら黙り込むレベルのため、バイクに乗ったまま高々とジャンプしたりバランスを崩して転倒したりする光景に、予想以上に興奮した。

 

モトクロスは、未整地の周回コースを規定時間内にグルグルと走り順位を競う競技。「未整地」といっても山を切り拓いた感じではない。どちらかというと、平地に残土や砂利、砂などを盛り上げてコースを作っている感じである。

それでも、アップダウンやジャンピングスポット、ヘアピンカーブなどさまざまな「未整地感」が施されており、人間が歩いたら足がズボズボ埋まりそうなほど、歩きにくい(走行しにくい)土壌でできたオフロードなのだ。

 

アナウンスと共に、モトクロス競技専用バイク「モトクロッサー」にまたがった選手たちが、ゾロゾロとスタートラインに並ぶ。

ヘルメットにウェア、モトクロッサー、プロテクターがカラフルで見栄えがいい。さらに、所せましとスポンサーのロゴが敷き詰められているあたりも、モータースポーツならではのカッコよさだ。そして、公道で聞かされたらイライラが治まらないほどのエンジン音が、なぜかコースではテンション爆上げのBGMとなるから不思議である。

 

ここから25分間、トップクラスの選手たちの競演が続くわけで、わたしは観戦場所を移動しながらモトクロスレースを満喫した。

しばらく見ていると、トップを走る水色の選手がやけに調子に乗っていることに気が付いた。「この世に怖いものなど存在しませーん」というような、見るからにウェーイ!な走りなのだ。

(ああいう子は、いつか痛い目を見るぞ・・)

老婆心ながら余計な心配をしつつレースの行方を見守った。しかし、何周たっても二位との差は開くばかりで、調子に乗った水色の走りはさらに勢いを増していった。

「どういうことだ?」とパンフレットを開くと、トップを独走する水色はスペイン生まれの19歳、今大会でも優勝候補の注目選手だった。

だから、あんなにも生き生きとした走りなのか——。

 

そして驚くことに、IA2(インターナショナルAクラスで、車両が250cc)で活躍する選手たちは、ほとんどが20代前半の若者だった。

そういえば、IA2の友人がこんなことを言っていた。

「24歳の僕が最年長でしたよ、10代が全盛期ですから」

24歳で最年長とは、どれだけ早熟な競技なんだ。クレー射撃なんて、定年退職後の選手もたくさんいるというのに——。

 

つまり、競技によっては「年齢」というのも重要な要素となるのだろう。かつてモトクロスのレースに参戦していた友人は、

「俺の頭上を若い子たちが飛び越えていくんだよね。それを見て、『あぁ、もう辞めよう』って思ったよ」

と言っていたが、やはり若さゆえの勢いや無謀さが関係するのかもしれない。

無限の未来しかない若者にとって、「怪我のリスクに怯えて安牌を切る」などという選択肢は、これっぽっちも存在しないのだろう。だからこそ伸び伸びと、見ているこちらもスッキリするほどやんちゃな走りができるのだ。

 

「ジャンプしたとき、真っすぐ飛ぶ人とハンドルを曲げる人といるけど、あれはなぜ?」

隣で観戦していた、同じくIA2所属の息子を持つ父に尋ねる。

「ハンドルを曲げることで高さを抑えて、接地を早めるんだよ。真っすぐ飛ぶことは誰にでもできるけどね」

なるほど。そんな理由があったのか・・。さらにこうも教えてくれた。

「この競技は、カネがなければ勝つことはできない。もちろんセンスも努力も必要だけど、少なくともカネがなければレースでは勝てない」

この言葉には唸らされた。ど素人のわたしが見ていても、国際A級ライセンスを所持する選手は明らかにライディングのセンスがある。これは残念ながら、努力や経験で補えるレベルではない。

そのうえ、センスの塊のような若者が身体づくりやコースマネジメントに尽力したら、その先はもうマシンの違いでしかないからだ。

 

なぜそう思ったかというと、IAクラス以外のレースが始まった時に思わず、「これってテスト走行?」と尋ねてしまったからだ。

なにも知らない素人の戯言だと思って、ぜひとも目くじら立てずにスルーしてもらいたいのだが、わたしにとっては「なぜエンジン音が緩いのか」「なぜスピードが遅いのか」「なぜジャンプで調子に乗らないのか」が、分からなかったのだ。

まるで安全運転しているかのようなレースっぷりに、IAというクラスで活躍する選手らの神がかり的な実力を思い知ったのである。

 

そして、神がかり的な実力を持った若者が集まるIAクラスで、それでもトップからビリまで大きな差が出る要因があるとすれば、それはやはり「マシンをどれだけ神がかり的に仕上げたか」なのだろう。

そのためには、カネが必要なのだ。

 

 

ブラジリアン柔術という競技があるが、これは道着一つで始められるスポーツである。スクールに入ったとしても、月に1万円程度で毎日練習ができるので気軽に門をたたくことができる。

おまけに、日々の練習に必要なものは「道着」と「水分」のみ。こんなにも安価で手軽に心身を鍛えられるスポーツなど、他にはないだろう。

 

帯の色によって経験値(実力)が分かるシステムではあるが、レースのように他人との比較ではなく、自分自身の過去と今とを比べるのが柔術。そして、明らかに「今」の方が成長しているというのも、柔術ならではの特徴かもしれない。

おまけに「24歳で最年長」なんてこともない。70歳になっても続けられるし、試合にも参加することができる。

 

・・こんな人間味あふれる持続可能な競技は、柔術以外にはありえないのではなかろうか。

 

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