ここ最近、突然の豪雨や雷が発生する日が続く。
昨日は雹(ひょう)まで降る騒ぎ。
さすがに自然には抗えないので、500円の超軽量折りたたみ傘を持ち歩くわたし。
柔術の練習に行くときはリュックがあるので、そこに突っ込めばいい。
ピアノのレッスンも楽譜を入れるバッグに忍ばせればいい。
だが、「ちょっとスタバで仕事でも」という時は手ぶらのため、傘のためにバッグを用意するのはダルイ。
そこで編み出したのは、腹に差し込む「侍スタイル」だ。
ユニフォームが短パンの私は、短刀を腰に差すかのように、折り畳み傘をズボンに颯爽と差し込んでいる。
こうすることで両手をフリーに使えるため、快適に過ごせる。
侍スタイルにおけるベストな服装は、オーバーオールだ。パンツにダイレクトに突っ込むので、外からは全く分からない。
ただ、傘を突っ込んでいるのを忘れて椅子から立ち上がったとき、ズボンの裾から折りたたみ傘がボトっと落ちてきた時は、わたしも周囲も驚いた。
*
いつものように、わたしがサテライトオフィス=スタバで仕事をしていると、徐々に雲行きが怪しくなってきた。
そして瞬く間に暗くなり、突如、横殴りの雨が降り始めた。
室内にいるわたしに被害はないが、外の木々が風でボサボサに乱れている。
雨は上から下に落ちることなく、右から左へ吹きすさぶ。
目の前にとめてある自転車は倒れ、転がりながら消えていく。
(突然降り出したな・・・)
他人事のように外の様子を傍観していた時、向こうからヤマトのお兄さんが現れた。
配達物を入れた緑色のデカい箱を支えながら、ヨロヨロとこちらへ向かって歩いてくる。
(うわ、マジか・・)
いくら仕事とはいえ、この暴風雨の中では身体の安全を確保できまい。先ほどから頻繁に稲妻が走り、落雷の危険すらある。
ガラス越しだが、わたしからおよそ5メートルの距離まで近づいてきた時、突風に煽られたお兄さんと緑の箱が、吹っ飛んで倒れた。
モロに吹きつける大粒の雨でびしょ濡れのお兄さん。飛ばされかけた帽子を握りしめ、倒れた箱を起こすとまた、進み始めた。
ーーこんな目にあってまで荷物を届けなければならないのか。
目の前で死闘を繰り広げる配達員を見たわたしからすると、
「そんな急がなくていいから、もう少し収まるまで雨宿りしなよ」
と言いたい。
わたしじゃなくても、普通の人ならまず止めるだろう。
だがそんなことを知らない建物内の人間からすれば、
「時間指定したのに、なんで来ないんだよ!」
とイライラしながら待っているのかもしれない。
ヤマトや佐川といった宅配便の配達員も、いま流行りのウーバーイーツ配達員も、当たり前だが我々と同じ人間だ。特殊能力を備えているわけではない。
よって、こんな嵐の中を強制的に働く必要性など、あるはずがない。
それでも顧客のため、自らを犠牲にしてまでも業務を遂行する姿に、頭が下がる思いがした。
*
雨も止んだところでちょうど閉店時間を迎え、わたしは店を出た。
帰宅後、リビングでずんだ餅を食べながら幸せを満喫していた時、玄関のチャイムが鳴った。
「お荷物をお届けにまいりましたー」
ヤマトの配達員だ。
早速ドアを開け、いくつか段ボールを受け取った。
段ボールは水分を吸収してぐんにゃりしている。さっきの豪雨のせいだろう。
配達の荷物もそれらを運ぶデカい箱も、あれほどの雨に曝されたらびしょ濡れになる。
個人的には段ボールがぐにゃぐにゃのほうが、テープが剥がしやすくて楽に感じた。
また、ゴミ捨て場に置くために段ボールをつぶす作業も簡単でいい。
そして段ボールはそんな風だが、中身は全くの無傷で問題はない。
だが、もしわたしがスタバであの光景を目撃していなかったら、このぐんにゃりとした段ボールを見てどう思っただろうか。
「大切な荷物なんだから、こんなに濡れないようにちゃんと管理してよ!」
とでもクレームするのだろうか。
*
想像力の乏しい人間は、時に損をする。
どんな時でもイマジネーション豊かに、見ていない景色でも想像しておきたい。
「段ボールがこんなになるほどの大雨の中、配達してくれてありがとう」
という言葉が、とっさに口を突いて出なかったことが悔やまれる。
Illustrated by 希鳳
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