昨日、かなり久しぶりに"身体検査"なるものに挑んだわたしは、色々と失態を演じた。まぁ、失敗というのは人生にはつきものだし、そこから学ぶことが多いのも事実ゆえに、恥じたり恐れたりする必要はない。
というわけで、甘酸っぱい思い出を振り返ってみよう。
*
(しまった、ゴムがきつすぎる・・・)
身体検査を受けるにあたり、Tシャツと短パンという服装の指定があったため、ブラジリアン柔術をたしなむわたしはここぞとばかりにノーギ(柔術着ではなく、ラッシュガードと短パンで行う柔術)のパンツを持参した。
聞くところによると、全身の関節の可動域やバランスなどもチェックするとのことなので、ここは柔術歴7年の実力を披露しなければなるまい——。そんなプライドを胸に、颯爽とノーギの短パンに足を通したわけだが、そもそもこのパンツはサイズが合っていない。見栄を張ってSサイズを購入したせいで、着脱の際に「プチッ」と何かが切れる音がするのだ。
音の原因は太ももと尻にある。身体的な特徴として"魔の極太エリア"を持つわたしは、ボトムウェアを選ぶ際にはここを通過できるかどうかでサイズを決めている。そのため、着用してみると全体的にやや大きめな場合がほとんどだが、ズボンが上がらなくてはどうしようもないので、甘んじて履いているのである。
ところが、ノーギの短パンは伸縮性があるため、多少きつくてもジャンプしながら引っ張り上げると、そのうち魔の極太エリアを通過するのだ。しかも、週に一度履くかどうか・・という頻度なので、着脱の際に糸か布が切れるあるいは裂ける音がしたところで、気に留めることなく過ごしていた。
そんなパツパツの短パンを履いたわたしは、改めて「ウエストのゴムの上に、腹が乗っかっていること」に気がついた。ノーギの際にはラッシュガードで腹部を隠すため、なんとなくやり過ごせていたわけだが、ブラインド越しに差し込む昼間の光を浴びた白い腹は、立派な鏡餅のようにでっぷりとたるんでいる。
おまけに、フンッと腹を凹ませてもさほど変化がみられない。それほど、ウエストのゴムが強力に絞めつけているのである。
そしていよいよ、一つ目の失態・・いや、醜態を晒す場面が訪れた。女医の前に座らされたわたしは、胸の音を確認するためTシャツを上げるよう指示されたのだ。
(それはマズい!立っているならばまだしも、座っている今は腹がパンツに乗っかっているわけで、そんな状態を見せるわけにはいかない!)
女性としてのプライドにかけても、ウエストのゴムよりも太い腹を披露するわけにはいかないわたしは、Tシャツをめくるのをためらっていた。すると背後から看護師が近づいてきて、頼んでもいないのに手伝おうとするではないか。
「子どもじゃあるまいし、一人でできるわ!」と、悪態をつきながら渋々Tシャツを持ち上げると、「深呼吸を繰り返してください」と女医が言った。
わたしは、全力で腹を凹ませたまま肺の膨張と収縮を繰り返した。しかし、腹部に力を入れたままでの呼吸はどうもスムーズにいかない。そんな"ちょっとおかしな深呼吸"を繰り返すわたしを、怪訝そうに見ていた女医がふと腹部へと視線を落としたのだ。
(・・・・・)
そして、ちょっと笑いを堪えたようなそうじゃないような表情を見せると「はい、大丈夫です」と言って聴診器を置いた。
——あぁ、やっぱりちゃんとダイエットするべきだった。
*
この日一番の失態は、胸部レントゲン撮影時に起きた。胸が垂れてきたことを懸念するわたしは、あれ以来毎日ブラジャーを着用している。そして今日は、こんなこともあろうかと金属製のホックがついていないものを選んできたわけだ。
「ん~、なにか金属がついてるなぁ」
撮影後、レントゲン技師の男性がそう呟きながらこちらへ歩いてきた。——もしかすると、肩紐を調節するアジャスターが金属だったのかも。
そこで、Tシャツを着たままでブラジャーを脱ぐと、再度撮影に挑んだ。
「はい、OKです」
スポブラは全てが布でできているが、ノンワイヤーブラはアジャスターやストラップの留め具が金属でできていることを知ったわたしは、今さらながらブラジャーの構造を学ぶこととなった。そして再びブラジャーをつけようとしたところ、先ほどはTシャツを着たまま外したので更衣室を使用しなかったことから、"とくに隔てるものない状態"で着替えることとなったのだ。
正確には、やろうと思えばカーテンでぐるっと囲むことはできるのだが、「たかがブラジャーを着けるためだけに、そんな大袈裟なことをするのもどうか」と思ったのだ。どうせ見てる人などいない・・というか、レントゲン技師の男性一人しかいないわけで、「まぁいっか」となったのである。
そこで、男性に背を向けると素早くTシャツを脱ぎ、すぐさまブラジャーに腕を通した。正面には大きな姿見があり、ぼてっと乗っかった鏡餅に思わず舌打ちをしながらも、いそいそと乳をブラジャーにしまっていたところ——なんと、鏡越しに男性と目が合ったのだ。
(あぁ、見られたか)
わたしにとってはその程度の感覚だが、男性の顔は明らかに恐怖で歪んでいた。決して「生乳が見れてラッキー!」という表情ではなく、一気に顔色が悪くなったのをわたしは見逃さなかった。
——あれは照れなのか恥じらいなのか、真相は彼に聞かなければ分からないが、とにかく無事にレントゲン撮影を終えたのである。
*
まだまだ失態は続くが、とりあえずはこの二点が「女性として、やっちまったな」というエピソードだ。
課業後、あの男性はきっと、興奮しながら同僚らにわたしの生乳の話をしたに違いない・・というか、そうであると願いたい。
コメントを残す