「七輪で暖をとる老人」

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料理をしないわたしは、できれば食器も洗いたくない・・と思っている。そのため、野菜は丸ごと齧るし、ホールケーキも両手で支えてがっつくわけだ。

もちろん、一人だからこそなせるワザであり、気心の知れた友人ならばまだしも、他人の前でそのような野蛮な食べ方を披露することはない。

とはいえ、ピカピカのシンクを維持するためにも、なるべく食べかすや食用油を流すことは避けなければならず、結果的に、食べ物を皿に載せるという行為から遠ざかるのであった。

 

今だって、ソファに腰掛けながら大好物のカットスイカにむしゃぶりついているわけだが、まるで"七輪で暖をとる老人"のごとく前かがみになり、両足の間には七輪ならぬゴミ箱を抱えている。

言い訳ではないが、こうやってゴミ箱を抱きながら食事をすれば、食べかすは完璧にゴミ箱へと吸い込まれるし、スイカの種があらぬ方向へ飛び散るリスクも防げる。要するに、見た目を除けば一石二鳥なのだ。

 

ちなみに、わたしが口にするのは好物の品ばかりなので、状況としては「いくらでも汚せるテーブルクロスの上で、ご馳走を堪能している」ということになる。

だがその姿を傍から見れば、「卑しい輩が目をギラつかせながら、ゴミ箱に顔を突っ込んでスイカやサツマイモにかぶりついている」という風にしか見えないだろう。

(・・他人からどう見られようが、知ったこっちゃない)

 

このように粗野を素で生きるわたしだが、今日、とある友人の話を聞いて肩身が狭くなったのである。

 

 

「ポテトチップスとか、袋ごと食べるのが許せないんだ。とにかく皿に移して、そこからつまんで食べてほしいんだよね」

別に"お嬢さま"というわけではなさそうだが、菓子袋から直接取り出して食べる行為に嫌悪感を覚える彼女は、自身も娘にも袋から皿に移して食べることを徹底しているのだそう。

(ポテトチップスというのは、手の甲や指先を油でベタベタにしながら食べることに意義があるのでは・・・)

 

また、ポッキーのように細長いスティック菓子で、個包装の上部を切り取って引っ張り出すタイプであれば、皿に寝かせるのではなくグラスに立ててつまむのだそう。

(あんなもの、一本ずつ食べるヤツがいるのか。一気にボリボリ食うんじゃないのか・・・)

 

もしも彼女と一緒に生活をしたならば、わたしは朝から晩まで叱られっぱなしであること必至。ましてや、ゴミ箱を抱きかかえながら果実や野菜を皮ごと食べている姿など、目撃した途端にぶっ倒れるに違いない。

彼女の娘だって、そんな野蛮な食べ方をするオトナがいると知れば、ある種のトラウマになるだろう。ママの教えと違う・・いや、真逆の食べ方をしている。このヒトは本当に、私と同じ人間なのか——。

 

そういえば彼女の娘は、近々、野外活動として山奥で合宿を行う予定とのこと。その際にクラスメイトと食事をするわけだが、もしもわたしのような野蛮人がいたらどうするのだろう。

さすがに、ゴミ箱を皿代わりにして食事をする児童がいたら、担任も見て見ぬフリはしないはず。だが、自由教育の今だからこそ、あえて放置される可能性・・というのも、無きにしも非ず。

そもそも、こんな合理的かつ経済的な食べ方は他にはない。なんせ水道水や洗剤を使うことなく、ゴミを散らかすこともなく迅速に食事を済ませることができるのだから、それを矯正される覚えはない。

 

——そんなことを思い出しながらカットスイカを食べていたところ、ちょっとした判断ミスから、フォークに刺したスイカの破片をゴミ箱に落としてしまったのだ。

(し、しまった!!!)

賞味期限が二日過ぎていたせいか、スイカの果肉が柔らかくなっており、自身の重みに耐えきれずに落下してしまったのだ。

 

いくら自称・野生児のわたしとはいえ、ゴミ箱の底に落ちたスイカの欠片を拾い上げて食べる気にはなれない。これが床に落としたのであれば、拾って洗って食べるだろう。しかし、さすがにゴミ箱に手を突っ込んで拾うのも・・・。

 

こうしてわたしは、"皿の上に食べ物を置いて食べる意味"を、今日初めて知ったのである。

 

Illustrated by 希鳳

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