亀裂骨折がピアノに及ぼす影響?

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パーツの一部を破損したり紛失したりしたら、部品交換するのが無難であり適切だろう。

無論、自力で直せる程度であれば修理という選択肢もあるが、素人のその場しのぎよりも新品と交換するほうが、この先を考えても安心できるわけで。

 

ところが、破損したのが人体の一部だったりすると、新品と交換というのはそう簡単にできることではない。

そのため、損傷部位に治療が必要な場合は処置を施したり、安静が必要な場合は回復するまでじっとしていたりと、ただただ時が過ぎるのを待つのみとなる。

 

それでも、一度怪我をしたらすぐには治らないのが生き物のさだめ。どんなにタイミングが悪かろうが、それも現実として受け止めなければならないのである。

 

 

(・・・なんだこの膨らみは)

右手小指の付け根に痛みを感じたのは、今から二週間前のこと。具体的には、中手骨のMP関節寄りに嫌な痛みを覚えたのだが、「まぁ、最悪ヒビが入った感じかな」という程度だった。

 

とりあえず小指と手の甲、そして手首までガチガチにテーピングで固めた状態で日常生活を送ったが、なんの問題もないし不自由も感じなかった。

だが唯一、悪影響を及ぼす動作を発見してしまった。それは「ピアノを弾くこと」だ。

 

普通ならばここは、悲観的になる場面だろう。しかしわたしは、むしろ目を輝かせて高揚する気持ちを抑えるのに必死だった。なんせ、やることが一つに絞られたのだから。

(よし、この状態でどうやったら普通に弾けるのか、あれこれ試してみよう!!)

 

ピアノの練習というのは、やるべきことは多いし考えるべきこともたくさんある。そのため、わたしレベルの素人が一曲をきちんと弾きこなすことは、ほぼ無理なのだ。

とはいえ、素人の楽しみレベルの習い事なわけで、最後までそれっぽく弾けたら、もはや「弾けた」といってもいいだろう。

その程度の趣味だからこそ、誤魔化しも効くし楽しく演奏することができるのである。

 

そしてわたしは、何を隠そう二年に一度のピアノ発表会を目前に控えており、大勢の知人・友人に声をかけていることからも、なんとか最後まで弾ききらなければならない・・という責務を負っている。

にもかかわらず、あれこれ気にする部分が多すぎて気が滅入っていたのは事実。

そこへ来て、右手小指という比較的重要な部位を損傷したことにより、わたしの向かうべき道が一つに絞られたのだ。

 

——そう。使えない小指を駆使して、いかに普通に弾くことができるのか、その方法を編み出せばいいのである。

 

それからのわたしは、なるべく小指を単独で動かさないように気を付けた。そしてMP関節や手首、肘、肩を中心に、小指の代わりとなる動きを叩きこむ練習を続けた。

そうこうするうちに時間が経過し、中手骨の具合もかなり良くなってきたある日、手首に体重がかかる動きを長時間続けたことで、再び、中手骨に怪しい痛みを感じたのだ。

(・・・まずいな)

どんなに眉をひそめたところで、傷めてしまったものはどうしようもない。数日後に行われるピアノ発表会を、この状態で乗り切るしかないことが確定したわけで、いかに早く打開策を編み出せるかが勝負となる。

 

加えてわたしは、俄然、やる気に満ちていた。

ここ最近でもっとも熱く、強く、魂を揺さぶられるほどの"圧倒的なやる気"を胸に、せっせと練習を始めたのだ。

 

昨日までとは違い、腱がズレたかなにかで神経が表面に現れているため、ちょっと触れただけで肘から肩にかけて神経痛がビリビリと走る。

だがこれは無視できる。なぜなら、ピアノを弾くという行為に直接影響しないからだ。

となると、右手小指を強調しなければならないパッセージを、いかに普通っぽく聞こえる弾き方をするか・・に心血を注がなければならない。さて、どうするか——。

 

ピアノの練習をしていて、これほどまで面白いと感じ、のめり込んだことはない。なんせ、不足しているパーツをどう補うか・・という一点にのみ集中すればいいわけで、演奏技術云々はまったく関係ないからだ。

使えない指にこだわるよりも、どれだけ上手く誤魔化せるかを競うための勝負・・といっても過言ではない。そんなゲームに、わたしは魅了されたのである。

 

 

本番まであと三日。

わたしの小指が回復することは、絶対にありえない。だがそんな不完全な状態でも、いかに完全っぽく仕上げられるかが、今のわたしが目指す全てなのだ。

 

こんなにも本番が待ち遠しいと感じたことは、ピアノに限らず未だかつてない。あぁ、武者震いが止まらない!!

——こうして今日もまた、ピアノを弾きながら朝を迎えるのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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