「すぐやります」「ちょっと待ってください」は、どのくらいの時間を指すのだろうか

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わたしと同じ世界を生きているようにみえても、多分、違う世界線を生きている人間がいるのだと、わたしは考えるようにしている。

そうでなければ、なぜ「ちょっと待ってください」のちょっとが10日もかかるのか、納得できないからだ。

 

 

3月もあと二日で終わり、月曜日からは新年度がスタートする。そんな狭間にこそ、社労士の仕事は増えるのだ。なんせ四月は新入社員がドッと現れるわけで、加えて昇給のタイミングも重なるなど、労働者にとっては楽しみであり緊張するシーズンでもある。

 

とはいえ、このご時世で利益ウハウハの企業はそう多くはないだろう。とくに、介護施設や個人経営のクリニックなどは、マンパワーで回しているため「儲かってしょうがない」なんてことにはならない。

物を売れば売っただけ儲かる仕組みならばいいが、そうもいかない業種の企業にとっては、毎年定期的に昇給させることは難しい。そんな裏事情も知らずに、従業員の皆さんは「うちの会社は昇給がない!」などと目くじら立てて怒らないでもらいたい。

 

まぁそれでも、新たな労働条件にするならば通知書を提示しなければならないわけで、それは新入社員に対しても同じである。そんなわけで、各々の労働条件を確認しつつせっせと契約書を作成するのが、この時期のわたしのルーティンワークなのである。

そして、このようなわたし主導では進められない事案について、タイムリミットまでにすべての資料が整えば、それなりにどうにかすることができる。たとえば徹夜をするなり他の仕事を後回しにするなり、わたし自身が犠牲になればいいだけのことだからだ。

だが、そのタイムリミットまでに資料が揃わないとなると、こちらとしてもどうしようもない。だからこそ、あえて少し余裕を持たせたスケジュールで進めているのである。

 

それなのに、タイムリミット当日になっても音信不通となると、こちらも焦りを隠せない。もちろん、何日も前からリマインドはしているが、どれほど尻を叩こうが動かないものはしょうがないわけで。

「すぐやりますので、ちょっとだけお待ちください!」

気のいい事務員が申し訳なさそうにそう告げるが、その「ちょっと」が果たして5分なのか30分なのか、あるいは1日なのかがわからない。

なんせこっちは、ちょっと待ってくださいで10日が経過しているのだから——。

 

正直、わたしはどうなっても構わない。困るのはわたしではなく、会社なり新入社員なりだからだ。

それでも、仕事として関わっている以上は約束を守らなければ胸糞が悪い。とはいえ、先方の重い腰を上げさせるのはそう簡単なことではない——。

 

(もう少し待つとするか・・・)

 

 

こうしてわたしは、自宅から一歩も出ることなく丸一日が過ぎた。

カフェに行こうと思えば行けたが、電卓を使う作業はできれば自宅で済ませたい主義のため、何時間もじっとメールを待っていたのだ。

 

「なぜ具体的な時間を聞かなかったのか?」

そう思う人もいるだろう。だが、もしもわたしが具体的な時間を聞いたり定めたりすれば、相手が嘘つきになってしまう。だから、あえて聞かなかった。

そんな口約束、あってないようなものだし、どうせもうすでに期限を守れていないのだから、嘘を重ねさせる必要もないわけで。

 

いや、もしかすると世界線が違うのかもしれない。相手の「ちょっと」は、こちらの世界でいうところの「数日」なのかもしれない。

そうであればすべての行動に合点がいく。相手を嘘つき呼ばわりしたくないので、むしろそうであってほしいくらいだ。

 

・・などと妄想を抱くも、現実は違う。念のため猶予として土日を設けたが、残念ながら先方が土日休みのため、この二日間はなんの進展もないことが確定している。そして月曜日である4月1日に、新入社員と雇用契約を交わすのだそう。

ということは、逆算すると朝の9時くらいにすべての資料が揃い、そこから賃金の内訳を設定して契約書を作成する——で、間に合うのだろうか。

 

結局わたしは、自分の時間を殺してでも仕事を優先するしかないのだ。とはいえ、そこまで忙しいわけでもないから、月曜日の朝ちゃんと起きておく・・という難題をクリアできればいいだけなのだが。

(朝9時に起きる・・・)

あぁ、だから嫌なんだ。余裕をもって夜中に作業をさせてもらえれば、こんな試練を突きつけられることもなかったのに——。

 

Illustrated by 希鳳

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