AIから届いた(と思われる)DMを読んでの感想

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「アイリスオーヤマサポートX担当です。突然のご連絡失礼いたします。」

滅多に通知のないDMのマークが反転していたので、不思議に思ってタップしてみたところ、このようなメッセージが届いていた。さらに続けて、このような内容が綴られていた。

「電子レンジに関する投稿を拝見しご連絡しました。 この度はご迷惑をおかけし誠に申し訳ございません。 深くお詫び申し上げます。 」

 

 

・・・まぁたしかに、わたしは数日前「アイリスオーヤマの電子レンジの取っ手から指が抜けずに、中指と薬指の爪が圧迫されて瀕死状態となった」というコラムを書いた。

だがもちろん、商品に対するクレームを述べたりアイリスオーヤマをディスったりはしていない。むしろ、昔から世話になっているアイリスオーヤマへの感謝を綴っているくらいで。

 

さらに、わたしの記事を読んだことのある人ならば、シニカルな筆致がわたしの持ち味ということを理解しているだろう。加えて、現実的にわたしを知っている者ならば、なおさら「あいつらしい」と感じるだろうし。

ところがAIには、その「茶目っ気たっぷりな皮肉」が伝わらなかったようだ。

 

メッセージを送ってきたのが人間かAIかは分からないが、それでもわたしの質問にデフォルトのメッセージのみを返したことからも、およそ人間ではないだろう。下手すると、自動返信のチャットボットかもしれないわけで、会話を楽しみたかったわたしは残念な気持ちに見舞われた。

ちょうど先日、ChatGPTによる文章生成のクオリティについて書いたばかりだが、改めて思うのは、「やはりまだ、人間の感情には追いつけていない」ということだった。

 

コラムというのは読み手の解釈や心境によって左右されるところが大きい。また、誰が書いているのか、どんな人物が書いているのかによっても、読み手サイドの心の準備や温度感が整うもの。

そしてそれらの"情報"によって、コラムに愛着というか命が宿るわけで、目に見えない耳に聞こえない触れることのできない「お膳立て」があるわけだ。つまり、それらの空気を読めるのが、人間という生き物なのである。

 

与えられた単語や文章を読解・分析することで内容を理解するAIにとって、文字化されていない情報を汲み取った上での判断は非常に難しい。

繰り返し学習していけば、微妙な空気感までをも読み取れるようになるのかもしれないが、捻くれた心境や裏腹な言葉など、気持ちを察することのできる人間ならば鵜呑みにしない感情を、AIは真に受けることだろう。

 

だからこそ、「(料理嫌いでめんどくさがりなわたしが、安価で便利なアイリスオーヤマの)電子レンジの取っ手を静かに閉めて、指を抜かずに歩き出したことで取っ手の隙間に指先が引っ掛かり、もう少しでレンジが床に落下するところだった」というネタを、"クレーム"と判断したのだ。

 

アイリスオーヤマからのDMを読んだわたしは、少し寂しい気持ちになった。せめて一言「面白かった」と、言ってもらいたかったのだ。

そんなことを言ったら、電子レンジでカレーを加熱した後に庫内のニオイを消そうと、レンジの扉を全開にしておいたことがある。レンジは冷蔵庫の上部に設置してあるので、しゃがんで飲み物を取り出した直後に立ち上がった瞬間、開きっぱなしのドアに頭頂部を思いっきりぶつけてうずくまったことがある。しかも何十回もだ。

さらに、リビングから直角に曲がったところにレンジと冷蔵庫が置かれているため、強度近視のわたしは周囲がよく見えず、勢いよく曲がった瞬間にレンジの扉に顔面から激突し、危うくレンジを転落させるところだった・・なんてこともある。もちろん、何十回も。

 

この話を聞いて「アイリスオーヤマの商品はけしからん!クレームだ!」と糾弾するような、まともな人間はいるのだろうか。

「アイリスオーヤマの電子レンジ」「レンジの扉」「頭をぶくけた」「うずくまった」これらの単語から想像するに、アイリスオーヤマの製品で怪我をしたのだから、謝罪をして修理や返品の案内を出そう——というAIの判断なのだろうが、その前に一つ、想像してみてくれないか。

鼻歌まじりに冷蔵庫からジュースを取り出したわたしが、膝の高さにある冷蔵庫のドアを閉めながら勢いよく立ち上がった瞬間、自らの意思で開けっ放しにしておいたレンジの扉に頭をぶつけてうずくまる・・なんて、目の前で見ていたら大爆笑のシチュエーションじゃないか。

 

——そんな面白さが、人間の世界にはあるんだ。

 

Illustrated by 希鳳

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