ネパール人に見抜かれた、私の用心棒たる資質

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これもやはり"国民性"というものだろうか——。むしろわたしは好きなタイプだが、日本人ならばどれほどの常連客だったとしても、こういう状況にはならないだろう。

なぜなら、夕飯を食べようと立ち寄った近所のカレー店で、わたしはたった一人で店番をしているのだから。

 

 

「チョット出ルノデ、(店番をお願いしても)イイデスカ?」

ネパール人の店主は、そう告げるとさっさと店を出ていった。ここは近所のカレー店で、店主とは顔見知りである。だが、さすがに店番を任されたことはない。

店頭には「キャッシュレス決済へのご協力に、ご理解をお願いします」という貼り紙がしてあるが、一応、おもちゃのようなアナログのレジも設置されている。つまり、強盗が押し入りでもしたら多少なりとも困るわけだ。

 

さらに、ウーバーイーツからの注文が入った場合には、料理を禁止されているこのわたしが、ナンをこねて引き伸ばし窯に張りつけて焼きつつカレーに火を通してから容器へ盛り付け、ピックアップに訪れた配達員へ手渡さなければならない。

ただでさえ火が怖いわたしが、家庭用のものとは異なるあのコンロで、果たして着火することができるのだろうか。さらにナンの生地をベロのように伸ばして、うまく窯の内側に張りつけられるのだろうか。そもそも、何味のカレーかを判断するのに、カレーを一口ずつ舐めろとでもいうのか。——無理だ、わたしには無理だ。

 

ちなみに、この店にはイートインスペースが2席あり、一つはわたしが占領し、もう一つのテーブルには45リットルのポリ袋に詰められた大量の千切りキャベツが載せられている。もしも新たな客が来た場合、あのキャベツをどこへ移動させたらいいのだろうか。

なんせこの店は非常に狭い。ビルの外階段下のスペースを、無理やり店舗にしたかのような狭さである。よって、あの大量のキャベツを置く場所は、今置かれているテーブル以外にありえないのだ。

 

そもそもここの店主は、店内飲食を望んでいない。今日はたまたまイートインを選択したが、普段はいつもテイクアウトのわたし。そして一度たりとも、客が店内で飲食している瞬間に出くわしたことがない。あるとすれば店主の友人か家族が、今わたしが座っている席でくつろぎながら会話をしているくらいで。

つまり、客が訪れたら「ごめんなさい、満席なんです」といって断るしかないのだ。そして「では持ち帰りでお願いします」と言われたら、これまたウーバーイーツ同様に、わたしが作らなければならないわけで、確実に"大事件"となる。

 

いずれにせよ、主(あるじ)なき店舗を守るという任務をまっとうするには、何人たりとも店に近づけないことだ。・・とりあえず入り口に「CLOSE」の看板を下げて、店内の電気を消しておこう。さらにウーバーイーツのアレは、電源を切っておこう。

店主はパチンコに出かけたわけでもあるまいし、10分もすれば戻って来るだろうから、それまでの安全を確保すればわたしの役割は果たされたことになる。・・そう、店の売上げなんてものは二の次でいいのだ!

 

(いや、それではダメだ!)

 

鼻息荒く店舗の警備に神経を巡らせていたわたしは、バターチキンカレーにシーフードチャーハンをぶっこみ、ものすごい剣幕で食べはじめた。

(店の足を引っ張るようなことをしてはならない!)

あのネパール人店主が異国の地である日本で、どのような生活を送りどのような人生を歩まされてきたのかは分からない。客の前では笑顔で過ごしているが、夜中に一人で泣いているかもしれないわけで、わたしのエゴで彼の生活を苦しめることはできない。

もしも今、わたしがカレーとチャーハンを平らげてしまえば、少なくともこのテーブルに来店客を座らせることができる。そして皿を片付けてテーブルを拭くことくらいは、さすがのわたしでもできる。・・だからこそ、速攻で食べ終えてテーブルの準備をしておくのだ!

 

 

あと少しで食べ終える・・というところで、いそいそと店主が戻って来た。手に下げたレジ袋には、大量のビールが詰め込まれていた。

閉店後に飲み会でもするのだろうか——。

 

あぁ、わたしの覚悟を返してくれ。

 

サムネイル by 希鳳

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