先月20日、日本年金機構より「年収の壁・支援強化パッケージ」の具体的な取り扱いが公表された。これは、以前投稿した「健康保険被扶養者の『一時的』な収入増の解釈の恐ろしさ」のエントリで触れた内容へのアンサーというわけだ。
この、"具体的な取り扱い"すなわち"事業主の証明による被扶養者認定のQ&A"を一読して思ったのは、「やっぱり、思った通りの内容じゃないか」の一言に尽きる。なぜなら、Q1-8に対する回答にて、
「一時的な収入増加の要因としては、主に時間外勤務(残業)手当や臨時的に支払
われる繁忙手当等が想定され、一時的な収入変動に該当する主なケースとしては、
・当該事業所の他の従業員が退職したことにより、当該労働者の業務量が増加した
ケース
・当該事業所の他の従業員が休職したことにより、当該労働者の業務量が増加した
ケース
・当該事業所における業務の受注が好調だったことにより、当該事業所全体の業務
量が増加したケース
・突発的な大口案件により、当該事業所全体の業務量が増加したケース
などが想定されます。一方で、基本給が上がった場合や、恒常的な手当が新設された場合など、今後も引き続き収入が増えることが確実な場合においては、一時的な収入増加とは認められません。」
と、賃金の上昇(昇給)については対象外としているからだ。また、パート・アルバイト労働者への補足としてQ2-4の回答で、
「シフト制であっても同様の取扱いとなります。一時的に勤務が増加するこ
とにより収入超過となる場合は、事業主の証明による被扶養者の認定の円滑化の対
象となります。ただし、契約変更により時給等が上昇し、通常どおり勤務した場合
においても収入超過が見込まれる場合は、対象となりません。 」
と明記されており、賃金の上昇を伴う年収130万円超過は「一時的」とはみなされないわけだ。
ちなみに、労働時間の増加が恒常的となった場合も、被扶養者に該当しなくなる可能性がある。それどころか、社会保険の適用要件を満たす場合は「社会保険の被保険者」となる必要があるため、被扶養者ではいられない。よって、本当に一時的な人員不足や業務量の増加にのみ、今回の「一時的な収入増加」が認められるというわけだ。
ところが、この件で顧問先から質問があった。
「テレビでもやってたんですけど、"130万円の壁がなくなった"とか"(インタビューに答えた人が)これで安心してたくさん働けます"とか言ってました。結局、シフト増やしちゃっていいってことですよね?」
マスコミというのは無責任の極みである。社会保険に関する素人のインタビュアーと、本件に無知なインタビュイーとで、表面上の字面を追った茶番劇を繰り広げているのだから。番組に関わる人間すべてが、10月20日付の通知の存在など知らないわけで(知っていたらそのような番組内容にならない)、それを信じた視聴者たちが勤務先に対して労働時間の増加を訴えているのだ。
とはいえ、実際のところ問題はある。仮に1月に人員不足でシフトが増えて、2月に人員補充をしたため本来の労働時間に戻り、3月に再び退職者が出たためシフトが増えて・・この繰り返しで一年を過ごしたとすれば、当然ながら収入は130万円を超えることになる。または、年間を通じて人員不足が繰り返された場合など、結果的に「一年を通じて労働時間の増加がみられた」ことになるのだが、このケースも「一時的」とみなされるのだろうか。
これは、みなされなければおかしいし、みなされたとすれば「一時的」の概念は崩れることになる。
今回、日本年金機構から「被扶養者の収入確認に当たっての『一時的な収入変動』に係る事業主の証明書」のひな型が示されたが、そこには「人手不足による労働時間延長等が行われた期間」や、「雇用契約等により本来想定される年間収入」を記入する欄が設けられている。
仮にここが、
・本来想定される年間収入・・・129万円
・労働時間延長等が行われた期間・・・令和6年1月から令和6年12月まで
・上記期間における収入実績額・・・200万円
となった場合でも、事業主の証明書さえ提出すればクリアできるということなのだろうか。事実として、「たまたま人手不足が重なり、無理を言って働いてもらったんです」ということであれば、ズルくもなんともないわけで、むしろ認めざるを得ないだろう。
・・考えれば考えるほど、不可解かつ穴だらけのやっつけ仕事である。まぁ、時限的な措置ということで、深く追及するのは止めておこう。
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