殺人新聞紙  URABE/著

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バカげた話ではあるが、俺はこの目で見たんだ。人間を殺す新聞紙が存在するということを——。

 

最初は単なる事故だと思っていたが、アイツは、あの新聞紙は意思を持ってターゲットを定め、静かにそして確実にその人間を殺しに近寄って行った。

そしてまさかの方法で、いとも簡単に絶命させたのだ。正確には、狙われた人間は死んでいないかもしれない。だが仮に生きていたとしても、これまでの生活は不可能なほどの後遺症を負ったであろう、衝撃的な光景を目の当たりにしたんだ。

そんな、たった一瞬で人間を破壊するまさかの方法とは、転倒による頭蓋骨骨折だった。

 

 

東京駅の新幹線乗り場で、俺は友人の山田を待っていた。夏休みだからか、平日にもかかわらず正月並みの移動客でにぎわっている。みやげ物売り場、コンビニ、飲食店、どこも人だらけで店内に足を踏み入れることすらできない。

それにしても、インバウンド需要が伸びているというが、この外国人の数はどうだ。なかでも中国人の家族連れの多さには驚かされる。すれ違いざまに聞こえてくる中国語には、もはやうんざりだ。

 

そんな人酔いしそうなほどの人口密度に耐えながら、俺はなにかが裂ける音を聞いた。それは雑踏を切り裂くほどハッキリとした、硬い物が破れる音に聞こえた。

それと同時に、一人の女性が派手に転んだ。隣りを歩く恋人と思しき男性が手を出す間もなく、一瞬にして女性の姿が消えたのだ。地面に目を落とすと、そこには人形のように脱力した女性が横たわっていた。

狼狽える恋人を尻目に、無関心な人間たちはゾロゾロとその場を立ち去り、それと入れ違いに救急隊が到着した。そしてすぐさま担架に乗せられた女性は、病院へと運ばれていったのだ。

 

あんな大惨事があったにもかかわらず、5分後には元の雑踏に戻っているのだから都会は恐ろしい。そして待ち合わせをした山田はまだ現れないわけで、俺だけが時間が止まったかのように呆然と立ち尽くしている。

バリッ

またもや、硬質ななにかを引き裂くかのような嫌な音が響いた。さっきと同じ音だ。

そして裂ぱくと同時に、思わず顔を歪めるほどの生々しい衝突音が聞こえた。まるでスイカを落としたかのような・・・そう、頭だ。人間の頭が地面に叩きつけられる、不快な音が耳を突き抜けたのだ。

案の定、そこには男性が倒れていた。

単なる衝撃だけではなく、鈍い破壊音——骨が砕ける音をも確認してしまった。間違いなく、頭蓋骨骨折だ。

 

(それにしても、転倒の直前に聞こえるあの裂ぱくは、いったいなんなんだ)

 

バリっとなにかを引き裂く音とともに、人間が転倒するこの現象。その原因は、なんと新聞紙だった。俺のところからは見える、あの夕刊紙が原因だ。あいつはさっきから、ターゲットを定めるやいなや足元に滑り込み、己を踏ませては、勢いよく頭部から地面へ激突するするように仕向けているのだ。

そしてこの夕刊紙は、人間に踏まれることで分裂し、あちらこちらで被害者を産出しているわけだ。

・・あ、また一人すっころんだ。あぁ、今度は頭部から出血しているじゃないか。

 

原因は明らかに新聞紙であるにもかかわらず、なぜ誰も片付けようとしないのか。地面に落ちた新聞紙など、ゴミ以外の何物でもないじゃないか。

今さら落とし主が取りに戻るとは考えられないし、そもそも30分以上踏みつけられて破かれて巻き散らかされて、多くの人間をノックアウトしているのだから、そろそろ駅員が気づいてもいいだろう。

なのになぜ、人々に呪いをかける”殺人新聞紙”を放置しているのか。そしてなぜ、俺以外の人間はあの夕刊に気が付かないのか。俺に見えて他人に見えないなんてことは——

 

その瞬間、新聞紙がニヤリと笑ったように感じた。そして不自然に地面を舞いながら、こちらに近づいて来る。

・・そうか、次のターゲットは俺ってことか。

 

 

(と・・まもと・・・山本っ!!!)

遠くで山田の声がする。あぁ、ようやく来たのか。いったい何分遅刻してるんだよ。

 

そんなことを思いながら、俺は意識を失った。

(完)

 

Illustrated by 希鳳

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