封じ込めざるを得なかった肉まん

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久しぶりに品川駅構内にある、美味い食べ物が並ぶエリアに足を踏み入れた。ケーキやらフルーツやら肉やらおにぎりやらが、眩い光を浴びてキラキラ輝いている。

しかし、数時間後に試合を控えているわたしは、ここで食べ過ぎて計量失格！などという事件を起こすわけにはいかないため、じーっと恨めしそうに眺めながら次々と店をハシゴした。

（・・ほぅ、肉まんか）

とそこへ、シュウマイや肉まんを売っている店が現れた。さっきから、おにぎりにしようかいなり寿司にしようか、はたまた小さな弁当にしようか迷っていたわたしだったが、ここへきて巨大な肉まんが登場したことで、気持ちは一気に肉まんへと引き寄せられた。

（肉まんなんて、周りはフワフワのパンだし、中身はギュッとした肉だから、体重増加に影響などないはず）

そう考えたわたしは、さっそくレジに並ぶと注文を始めた。まずはやはり「粗びき黒豚肉まん」だろう。値段も高いし、大きさもデカい。これを買わずしてここの肉まんを食べた、などと言ってはなるまい。

次に、その隣にある「和牛肉まん」を指名した。肉まんといえば豚肉のイメージだが、なにやら高級なすき焼きチックな見た目をした肉まんである。これも食べておかなければ、後々後悔するだろう。

そしてその隣には「一番人気！和豚もちぶた粗びき肉まん」が控えていた。一番人気といわれたら、試さないわけにはいかない。値段も先ほどの二つよりは安いし、騙されたと思って買うしかない。

こうしてわたしは、黒豚まんを二つと和牛肉まんを二つ、そして一番人気を一つ購入して新幹線へと飛び乗ったのである。

＊

（なんなんだ、この人間の多さは・・）

スーツケースを引きずりながら、大量の人間がホームを埋め尽くしている。しかもここは始発駅ではない、二つ目の駅となる品川だ。おいおい、マジかよ・・。

案の定、車窓越しに中を見ると、自由席も指定席もヒトで埋め尽くされている。そして、そのほとんどがインバウンドと思われる外国人である。京都へ寺でも観に行くのだろうか。

しかも最悪なことに、わたしの乗る新幹線は広島行きだった。それよりも9分早い新幹線でもよかったのだが、念のため遅いほうを選んだことが裏目に出た模様。なぜなら、9分前は新大阪行きだったのだ。こちらには大阪より西へ向かう客は乗っていない。ということは、わたしが乗る広島行きのほうが混んでいるのではないか、と邪推したからだ。

とはいえ、ラスト数席の指定席を抑えたわたしは、予定通りに広島行きの新幹線へと乗り込んだのである。

悲劇はそこで起きた。

座席に座るとさっそく、熱々の肉まんを食べようと袋を開けた途端、なんともいい匂いが辺り一面にプーンと漂ったのだ。当たり前である。蒸したてホヤホヤの肉まんが匂わないはずがない。それはもうジューシーな肉汁がしたたるであろう、肉々しい芳醇な香りがビンビンと広がって行くのだ。

（・・・し、しまった）

あまりの恐ろしさに、隣のオッサンの様子を探ることができない。前後左右すべての乗客が、白い目でわたしを睨みつけているに違いないからだ。これが他人だったら、わたしも当然ながら同じことを思うだろう。「こんな満員電車で、肉まんなんか食うバカがいるか！」と。

だが、空腹のまま試合会場へ向かうのは嫌だし、なにがなんでも肉まんを食わなければ、店員にも製造元にも生産者にも失礼である。かといって、無神経に肉まん臭をプンプンまき散らせるような強心臓は持ち合わせていないゆえに、わたしはしばらく袋の口を手で握りしめながら考えた。

（そうだ、袋のなかでちぎって、それを素早く取り出して口へ放り込むのはどうだろうか——）

我ながら名案である。肉まんを車内の空気にさらすから、匂いがばら撒かれるのだ。ならば瞬間的に肉まんを口へと運べばいいわけだ。

こうしてわたしは袋の中で肉まんをちぎり、片手でバッとつまみ上げるとすぐさま逆の手で袋の口を閉じた。そして肉まんの欠片を口へと放り込んだ瞬間に、すぐさまお手拭きで鼻と口を押さえてモグモグと咀嚼をした。

これならば肉まんが空気中に曝（さら）される時間は短いゆえに、匂いも極力抑えられているはずである。

そう信じて、わたしは黙々と肉まんをちぎっては運び、ちぎっては運びを繰り返した。もはや味わう余裕などない。とにかく呼吸を少なくし、なるべく息が漏れないように鼻と口をおさえながら、一心不乱に咀嚼を続けた。手元など見もせず、やみくもに肉まんをちぎっていたので、どれが黒豚でどれが和牛かなど知る由もない。

——それでいいのだ。今はとにかく、他の乗客の神経を逆なでしないように肉まんを減らすことができれば、それこそが最高の食べ方なのだから。