ーーまた雨が降り出した
家を出るとき雨など降ってなかったのに。
ここ最近、秋雨前線の影響からか雨が降りがちだ。
かといって家を出るときに青空だと、さすがに長い傘を持って行く気にはなれない。
だからと折り畳み傘を忍ばせるほど、リュックにスペースがない。
*
店やジムへ行くとき、小雨がぱらついていたらビニール傘で出かける。
そして大体、店やジムを出る頃には止んでいる。
そうなるとビニール傘は荷物となるので、置き傘となる。
店やジムには誰かの置き傘が大量に残されている。
そこで、いつか雨が降った際に誰かの置き傘を勝手に使わせてもらうことで、ギブアンドテイクが成立する(勝手な解釈)。
一層のこと、ビニール傘は「公共の傘」とすればいい。
JUPA(日本洋傘振興協議会)によると、毎年1億2千~3千万本の洋傘が国内で消費されており、そのうち8千万本がビニール傘と言われている。
一説によると、消費されるビニール傘と同量のビニール傘がゴミとして捨てられているそうだ。
家から差してきた傘を店舗等へ放置した場合、不法投棄となる(可能性がある)。
それでも価値がある(壊れていなければ傘としての機能を保持している)ものゆえ、不法投棄された店舗等は傘を保管する。
不意に天気予報に反して雨でも降れば、不法投棄物=ビニール傘が宝と化す。
最低でも500円で売れる。
人によっては1,000円でも買うだろう。
さらにドラッグストアや酒屋など、普段ビニール傘など販売していない店舗にまで、ここぞとばかりにビニール傘がお目見えする。
あと、誰もが一度はやりたい衝動に駆られるのが、傘のアップグレードだ。
店を出るときにまだ雨が降っていたとき。
自分の小汚い斧(ビニール傘)と、ピカピカの斧(ビニール傘)とを見比べ、ついピカピカの斧(ビニール傘)に手を伸ばしてしまう、あれだ。
逆にデグレードされたときの怒りと憤りは甚(はなは)だしい。
しかしこれも、すべて「公共の傘」だと思えば感情の乱れは生じない。
自分の所有物だから、アップグレードしたいと思ってしまうのだ。
自分の所有物だから、デグレードされれば殺意を抱くのだ。
ーーそんな妄想を膨らませているうちに、雨は止んだ。
*
ビニール傘は、時には凶器にもなる。
そのままでも使用できなくはないが、傘の柄の部分を踏んづけて曲げて、そこをくり返し折る。
すると、金属疲労による破断から鋭利な突起物が生まれる。
さらには自転車で逃走しようとする犯人のスポークめがけてビニール傘を突っ込めば、自転車は転倒し犯人確保となる(が、別の事件にもなる)。
このようにビニール傘の用途は多様化している。
つまり、「護身棒」としても使用できる優秀なビニール傘こそ、公共の傘とすべきだ。
もちろん店頭で商品として陳列してあるビニール傘は、お金を払って購入しなければならない。
しかし占有者が占有を放棄している、あるいは不法に投棄した場合、そのビニール傘を公共の傘として誰もが利用できたら、それは素晴らしい世の中になる。
これにより、突然の降雨からも、突然の暴漢襲来からも、ビニール傘が守ってくれるだろう。
ビニール傘こそが、日本を救うアイテムとなるのだ。
ーーこの画期的な政策を実現するためには、私が政治家となるしかない
そう腹をくくろうとしたとき、またもや雨が降り始めた。
本日、あいにく傘を持ち合わせていない。
スタバの傘立てにはあふれんばかりのビニール傘が見える。
さて、どうするべきか。
Illustrated by 希鳳
鬼に金棒
ウラベにビニール傘
たしかに、ビニール傘の方が応戦能力高いかもしれない。
野外でも雨に濡れないという強みがある。