はいたつはいつも雨

Pocket

 

ここ最近、突然の豪雨や雷が発生する日が続く。

昨日は雹(ひょう)まで降る騒ぎ。

 

さすがに自然には抗えないので、500円の超軽量折りたたみ傘を持ち歩くわたし。

 

柔術の練習に行くときはリュックがあるので、そこに突っ込めばいい。

ピアノのレッスンも楽譜を入れるバッグに忍ばせればいい。

 

だが、「ちょっとスタバで仕事でも」という時は手ぶらのため、傘のためにバッグを用意するのはダルイ。

 

そこで編み出したのは、腹に差し込む「侍スタイル」だ。

 

ユニフォームが短パンの私は、短刀を腰に差すかのように、折り畳み傘をズボンに颯爽と差し込んでいる。

こうすることで両手をフリーに使えるため、快適に過ごせる。

 

侍スタイルにおけるベストな服装は、オーバーオールだ。パンツにダイレクトに突っ込むので、外からは全く分からない。

 

ただ、傘を突っ込んでいるのを忘れて椅子から立ち上がったとき、ズボンの裾から折りたたみ傘がボトっと落ちてきた時は、わたしも周囲も驚いた。

 

 

いつものように、わたしがサテライトオフィス=スタバで仕事をしていると、徐々に雲行きが怪しくなってきた。

そして瞬く間に暗くなり、突如、横殴りの雨が降り始めた。

 

室内にいるわたしに被害はないが、外の木々が風でボサボサに乱れている。

雨は上から下に落ちることなく、右から左へ吹きすさぶ。

目の前にとめてある自転車は倒れ、転がりながら消えていく。

 

(突然降り出したな・・・)

 

他人事のように外の様子を傍観していた時、向こうからヤマトのお兄さんが現れた。

配達物を入れた緑色のデカい箱を支えながら、ヨロヨロとこちらへ向かって歩いてくる。

 

(うわ、マジか・・)

 

いくら仕事とはいえ、この暴風雨の中では身体の安全を確保できまい。先ほどから頻繁に稲妻が走り、落雷の危険すらある。

 

ガラス越しだが、わたしからおよそ5メートルの距離まで近づいてきた時、突風に煽られたお兄さんと緑の箱が、吹っ飛んで倒れた。

モロに吹きつける大粒の雨でびしょ濡れのお兄さん。飛ばされかけた帽子を握りしめ、倒れた箱を起こすとまた、進み始めた。

 

ーーこんな目にあってまで荷物を届けなければならないのか。

 

目の前で死闘を繰り広げる配達員を見たわたしからすると、

「そんな急がなくていいから、もう少し収まるまで雨宿りしなよ」

と言いたい。

わたしじゃなくても、普通の人ならまず止めるだろう。

 

だがそんなことを知らない建物内の人間からすれば、

「時間指定したのに、なんで来ないんだよ!」

とイライラしながら待っているのかもしれない。

 

ヤマトや佐川といった宅配便の配達員も、いま流行りのウーバーイーツ配達員も、当たり前だが我々と同じ人間だ。特殊能力を備えているわけではない。

よって、こんな嵐の中を強制的に働く必要性など、あるはずがない。

 

それでも顧客のため、自らを犠牲にしてまでも業務を遂行する姿に、頭が下がる思いがした。

 

 

雨も止んだところでちょうど閉店時間を迎え、わたしは店を出た。

 

帰宅後、リビングでずんだ餅を食べながら幸せを満喫していた時、玄関のチャイムが鳴った。

 

「お荷物をお届けにまいりましたー」

 

ヤマトの配達員だ。

早速ドアを開け、いくつか段ボールを受け取った。

 

段ボールは水分を吸収してぐんにゃりしている。さっきの豪雨のせいだろう。

配達の荷物もそれらを運ぶデカい箱も、あれほどの雨に曝されたらびしょ濡れになる。

 

個人的には段ボールがぐにゃぐにゃのほうが、テープが剥がしやすくて楽に感じた。

また、ゴミ捨て場に置くために段ボールをつぶす作業も簡単でいい。

 

そして段ボールはそんな風だが、中身は全くの無傷で問題はない。

 

だが、もしわたしがスタバであの光景を目撃していなかったら、このぐんにゃりとした段ボールを見てどう思っただろうか。

「大切な荷物なんだから、こんなに濡れないようにちゃんと管理してよ!」

とでもクレームするのだろうか。

 

 

想像力の乏しい人間は、時に損をする。

どんな時でもイマジネーション豊かに、見ていない景色でも想像しておきたい。

 

「段ボールがこんなになるほどの大雨の中、配達してくれてありがとう」

 

という言葉が、とっさに口を突いて出なかったことが悔やまれる。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

Pocket