ーー妄想や金縛りではない。だがわたしの上に「偽ヨギボー(Yogibo)」が横たわっているのは事実だ。
わたしは「偽ヨギボー」と共に夜を過ごしている。その正体は掛け布団。
そして歴代の掛布団は、なぜか翌朝にはシーツの中でダンゴムシのよう丸まっていた。例外なくすべて、だ。
現在使用している掛布団とシーツは「ニトリ」の商品。毎シーズン買い替えても財布に優しいニトリは、わたしのお気に入り。
そんなニトリに対して予(かね)てから疑問があった。それは、
「なぜ四隅を留めるヒモがついていないのか」
ということだ。
掛布団本体の四隅には、ヒモで縛るための「輪っか」がついている。なのにシーツ側にヒモがついていないため、縛ることができない。
たしかにシーツの二隅(ファスナーがついていない側)はカットされ、中の布団を引っ張り出せるようになっている。このアイデアは秀逸。
しかし、引っ張り出した布団を固定するための、ヒモなりボタンなりが存在しない。
睡眠中も絶えず動くわたしは、目覚めれば布団が床に落ちている。もはや落ちていない日などない。
そして布団はシーツの中でかたより、収拾がつかなくなっている。
それでも真面目なわたしはせっせと布団を直した。シーツと布団の角を揃えて、長方形の掛布団を再現し続けた。
そんなある日の夜中(早朝)。寒さで目が覚めると案の定、布団は丸まり床へ落ちている。わたしの上には薄っぺらい布が被さっていた。
ーーシーツだ。
無意識に布団を引っ張り上げたところ、シーツだけを掴んでしまったらしい。おかげで布団はシーツの中でかたより、錘(おもり)となって落下したのだろう。
度重なるシーツの不祥事に、さすがのわたしも堪忍袋の緒が切れた。
ーーわかった。そこまでわたしを困らせたいのなら、そのままでいるがいい。
布団にキレたのはこれが初めてだが、穏やかではいられなかったのだから仕方ない。
あれ以来わたしは、シーツの中で丸まり「偽ヨギボー」となった掛布団を体に乗せて寝ている。
偽ヨギボーの欠点は、体全体を覆わないことだ。
ここ最近は暑くも寒くもないため、さほど問題は起きない。しかし冬は偽ヨギボーの真下に潜り込まなければ、寒くて眠ることなどできない。
うずくまった人間ほどの大きさの偽ヨギボーを、体から外れないように乗せ続けることは、見た目以上に難しい。
しかし一度決めたら貫くのが信念。
側から見たら「ヒト2人が重なって寝ている」状態下で、わたしは寒さを凌いで安眠を求めた。
逆に暑いときも大変だ。
「偽ヨギボー」がギュッと丸まっている分、布や綿の密度は高くなり、すぐに汗ばむ。そして暑いからと蹴り飛ばすと、今度は寒い。
そこで加工を施す。これまでよりもさらに細長く丸めて、腹の上に横たえてみる。
(ちょっと重いが、悪くない)
こうして「細長偽ヨギボー」となった布団を駆使しつつ、わたしは睡眠を確保しているのだ。
かといって悪いことばかりではない。
例えば体の左右半分だけに布団を掛けたい時、「細長偽ヨギボー」が重宝する。通常の長方形の布団でこれをやれば、布の重みで布団は床へずり落ちてしまうだろう。
しかし「細長偽ヨギボー」ならばその心配はない。思う存分、左右どちらかの半身へ乗せることが可能。
ーーこれだけのヨギボーパターンを揃えているということは、これすなわち、本家・ヨギボーよりもヨギボーを知り尽くしているといえよう。
*
そうそう、偽ヨギボーを使ったオススメの寝方がある。それは、
「横向きになり、その上に偽ヨギボーを乗っける」
という方法。
これはバランス感覚が養われ、かつ、適度な重みが人に安心感を与え快眠をもたらす。
ぜひお試しあれ。
Illustrated by 希鳳
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