来世こそ、両面宿儺

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(・・これは目玉か)

友人からプレゼントをもらった。年がら年中誕生日イベントを開催しているわたしは、いつでもどこでも誕生日プレゼントを受け付けている。とはいえ、今回のこれらはべつに誕プレというわけではなさそうだが、異国情緒あふれるアクセサリーをもらったわたしは、ご満悦である。

 

この「青い目玉」はトルコの有名なお守りで、ナザール・ボンジュウと呼ばれるガラス細工だ。青いガラスに何重かの円が描かれており、目玉を想起させるデザインになっている。

「ナザール」はアラビア語で邪視や監視、そして「ボンジュウ」はビーズを意味するらしい。そのため、この青い目玉を身につけていると、邪視や災いを跳ね返してくれるのだそう。

しかも青いガラスの目玉というのは、なんとなくシュールでオシャレな感じがするため、身につけていてもダサくない。

 

こうしてわたしは、たくさんの青い目玉を手首に巻いて、邪視から守ってもらっているのだが、友人からもらったもう一つの小袋を開封してみると、そこにはまた別の「目」が入っていた。

(こ、これは・・・)

ブラブラと揺れる金色のピアスには、青い目が描かれていた。だが先ほどの、青い目玉とはちょっと違う。そう、まるでプロビデンスの目なのだ。

 

「プロビデンスの目」とはキリスト教における意匠で、「神の全能の目」を意味する。そして、三位一体の象徴である三角形の真ん中に青い瞳の片目が配されており、その周囲を栄光の光に囲まれたデザインとなっている。つまり、神の目で人類を監視しているということだ。

某秘密結社のトレードマークとしても有名なこの「目」を、なぜわたしに贈るのか——。

 

特に都市伝説好きなわけではないが、某秘密結社の暗躍っぷりは興味をそそる。著名な日本人らがメンバーだという噂も聞くし、入会はメンバー数名からの推薦が必要だったり、女性は入会できなかったりと、ベールに包まれた存在が様々な憶測を呼んでいる。

とはいえわたしは女だし、仮に推薦を受けられたとしても入会金や月会費の支払いが滞り、あっさりとクビになるだろう。よって、都市伝説として勝手気ままに楽しむのがベストといえる。

 

(それにしてもなんで、ナザール・ボンジュウやらプロビデンスの目やら、宗教懸かったアクセサリーを友人は選んだのだろうか。やはり、その方向へ進めという暗示なのか——)

 

そして彼女へお礼のメッセージを送ったところ、

「青い目玉はお守り。目が邪気を祓うなんて、URABEにピッタリだよね」

と、普通にナザール・ボンジュウの説明をしてくれた。だがその瞬間、わたしは自分の目が極度に弱いことを思い出した。

 

わたしの網膜は一般人と比べてかなり薄っぺらい。ミルフィーユで例えるならば、1~2層しか存在しない貧しくちんけなミルフィーユだ。食べ応えはないし、噛めばすぐにパラパラと崩れるし、いいとこなしの安い洋菓子である。

それゆえに、ちょっとした衝撃や圧迫で破れたり穴があいたりと、まさにやぶれかぶれの網膜なのだ。

こればかりは遺伝なので、悔やむまでもなく当たり前に受け入れてきたが、ややもするとその事実を忘れがちな日々を送っていたのかもしれない。そんな警戒心のなさを改めさせられるかのように、わたしは思わずハッとした。

 

今のご時世、目はとくに重要だ。情報収集はかなりの割合で視覚を使うし、仕事もコミュニケーションもすべて、目を使って行われるからだ。

全盲の父と片目しか見えない母を見ていると、なおさら、目の大切さを痛感させられるわけで、わたしにとって命と同等に目は重要なのである。

 

(生まれ変わったら両面宿儺になろう。あいつは、目が4つもついてるからな・・)

 

たくさんの目玉を手首に巻きつけ、耳からもぶら下げて、わたしは密かに「両面宿儺」として大暴れする来世を想像するのであった。

 

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