ブランド品を身につけなくなって、しばらく経つ。
といっても、時計やシルバーアクセサリーの類は別だが。
ここでいうブランド品は、女性ならではのハイブランドのこと。
ちなみに、私がブランド品を避けているわけではない。
あちらが私を避けているのだ。
例えばシャツやニットを試着したとき、危うく脱げなくなる。
バストが巨乳だからではない、チェストが巨乳なのだ。
それに加えて肩回りや背中が分厚いため、私の身長からするとМサイズのはずが、袖を通してしまうとピッタリすぎて脱げなくなる。
その結果、店員に助けを求め、衣服を伸ばさないように脱がせてもらうことになる。
パンツ類も同じだ。
とくに尻と太ももが立体的な私は、パンツを上げる際、最後まで上がりきらない恐れがある。
恐ろしかったのは、細身のストレッチパンツがひざで止まってしまったときだ。
これはつまり、そのブランドを選ぶ女性の大半の太ももが、私のふくらはぎと同じ太さだということを暗に示している。
言い換えると、ハイブランドが私を拒絶している。
ああいう店の試着で一番やっかいなのは、試着室の外で店員が待ち構えていることだ。
「いかがですか〜?」
いらん心配をしてくれる。
「あ、いい感じです」
と必然的に言わされるわけだが、ツワモノともなるとその先がある。
「大きな鏡でもご覧ください~」
この強制的な指示たるや。
パンツが上がり切らずジッパーがブイの字に全開となっているにもかかわらず、外へ出てこいだと?
「あ、大丈夫ですぅ」
この無神経め、とやんわり断る。
すると、
「お似合いだと思いますから、ぜひこちらで見せてくださ〜い」
キ、キサマ・・・。
ちなみに無理やり履いたパンツを脱ごうとすると、真っすぐ下ろしたところで脱げない。
私の足に食い込まんばかりにパンツが貼りついているため、バナナの皮をむくように、パンツを裏返しにして脱ぐしかないのだ。
最後はかかとに引っかかり、そのままきれいに裏返しとなってパンツが私から離脱。
その点、ユニクロは優しいーー
*
ティファニー銀座三越店での出来事。
5年ほど前に購入したお気に入りの一粒ダイヤのネックレスがあり、その長さを調整してもらうため、店舗を訪れた。
ティファニーと言えば女性の憧れのブランドであり、男性からしても「ティファニー贈っとけば安牌(アンパイ)」と、定評のあるジュエリーブランド。
店員の教育も行き届いており、常に笑顔で所作の一つ一つが優雅で美しい。
「いらっしゃいませ」
美人な店員に声をかけられる。
「ネックレスを短くしたいのですが」
首に付けたネックレスを触りながら私は言う。
「どうぞ、こちらへ」
言いながらサッと椅子を引き、そこへ座らされる。
店員は、立派な鏡を目の前に置くと私の背後へ回り、ネックレスをつまんで長さを決める。
「チョーカーほど短かくなくていいんだけど、Tシャツからでも見えるくらいにしたいです」
私は希望の長さを伝える。
「それでしたら、このくらいはいかがでしょう?」
長さにして20ミリ強をカットするくらい。
「いいですね、それで」
私はすんなり、その長さに同意した。
白い歯をチラッと見せ軽くうなずく店員は、トレーにネックレスを寝かせながら会話を続ける。
「お客さま、格闘技か何かされているんですか?」
まぁね、と言いかけてハッとなる。
私はここへ来て一言も、格闘技どころかスポーツについての会話はしていない。
なのになぜ、どこを見てそう思ったのだろうか。
「どうしてそう思ったの?」
単刀直入に質問し返す。
すると店員は一瞬「しまった」という顔をし、慌てふためきながらこう取り繕った。
「あ、その、お首が立派でしたので・・」
首のことを「お首」と言われたことも初めてだが、それが「立派」だと言われたのも初めての出来事。
ましてや私の身体で唯一、女性らしい部分といえば「首」だと自負していたわけで。
だからこそ、ティファニーのネックレスなどという物を着けているのであり、私の首は女性としてのアピールポイントのはずなのだが。
*
一昨日、友人がTwitterで、
「鍛えてるかどうかは首みたらわかりやすいな」
とつぶやいていた。
それを見てティファニーでの苦い思い出がよみがえった、というわけだ。
ちなみに私は、鍛えていない。
Illustrated by 希鳳
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