ベテラン医師とにらみ合う。
お互い一歩も譲らぬ展開。
私は嘘などついていない。
そして目の前に写し出される脳の輪切り画像も、もちろん嘘ではない。
では何が起きたのかーー
*
深夜2時過ぎ、弁護士の友人へ電話をする。
まともな人間の意見が聞きたかった、と言うのが正直なところだが、それに加えて彼の姉は脳科学者でもある。
そんな好環境の人間がいるならば、是非とも意見を聞いてみたい。
「病院へ行け、とかではなく論理的に納得させてほしい」
そう前置きした上で、私が抱く疑問を話し始めた。
何の話かといえば、3日前に起きた「失神転倒頭部激突事故」について。
私はどうしても、納得できないのだ。
あれほど派手に卒倒したにもかかわらず、なぜ無傷なのかが。
頭部に外傷が見当たらないこと、また、脳損傷した場合に見られる特有の症状も表れないこと。
この現実が私をより不安にさせた。
「無傷でよかったじゃん」
確かにその通りなのだが、そんなはずがない。
今回の目撃証言といい、過去に直面したてんかん患者の転倒といい、私が無傷であるはずがないのだ。
ましてや床は硬い石でできていたわけで、30センチの高さから頭を落としたとしても、ものすごく痛いだろう。
それが、およそ1メートル50センチの高さから真っすぐ一気に倒れたにもかかわらず、なぜ無傷なのか。
繰り返しになるが、膝から崩れ落ちるように倒れたのではない。
体が硬直(むしろ痙攣していた)し、固まった状態で倒れていったのだ。
「左のケツが痛いんだよね?つまりケツで8割の衝撃を吸収したんだろう」
言わずもがな、私のケツはかなり立派だ。
そしてこの痛さは尋常じゃない。
間違いなくここがファーストインパクトのはず。
「で、そのゴツい三角筋で残りの2割を吸収。首の筋肉が硬直していたため、頭は奇跡的に衝突を免れた」
ふぅむ。
あながち間違ってはいないだろう。
物理的にもそう捉えるしかないわけで。
ただ、頭は人間の体のなかで最も重い部位であり、そこが地面に触れずに、もしくは触れたとしてもわずかな衝撃で着地することなど、ありえるのだろうか。
通常ならば、地面に打ちつけられた衝撃で首がしなり、その反動で重い頭が床へ叩きつけられる。
ところが偶然にも、あのとき体が硬直(痙攣)しており、首が固まっていたため鞭のようにしならなかった。
こう考えるしかない。
「仮に外傷がなかったとしても、1メートル50センチの高さから急激に頭が動かされたわけで、脳の神経細胞が損傷したと考えるのが自然じゃないかな」
まさにおっしゃる通り。
頭部に外傷がないことの物理的な解説を受け、なんとなく納得できた私は翌日、脳外科へ向かった。
*
歩行障害や運動麻痺といった脳疾患特有の症状をチェックし、CT検査に移る。
医師の画像診断後、私は呼ばれた。
「キレイな脳ですよ」
「骨もほら、どこから見ても異常なし」
いろんな方向から輪切りにした脳内3D画像を写しながら、ベテラン医師はつまらなそうに説明する。
「本当にコブはない?触ったら痛いところも?」
「はい、どうやっても見つかりません」
医師の顔には、困惑の表情とともに疑いの眼差しすら感じられる。
私は意識を失い、御影石のタイルに向かって一直線に倒れた。
目撃者は「頭が固いものにぶつかる音」を聞いているし、頭がタイルに落下した瞬間を見届けている。
私の体は痙攣し、手は変な方向に曲がり、目はぎょろっとむき出しで視点は定まらず、完全に死んだと思われた。
それなのになぜ、傷はおろかちょっとした事故の名残りすら確認できないのか。
「まぁ、奇跡的にうまく倒れたんでしょう」
苦笑いで医師は言う。
首や肩の筋肉が頭を支持したとも考えられる。
日ごろの柔術が私を助けてくれたと。
それにしても私自身、納得がいかない。
もしほんのちょっとでも「触ると痛い」とか「コブができてる」とか、リアルな何かがあれば転倒の事実を受け入れられる。
だが、どれだけ探しても痕跡を見つけられないとなると、意識を失っていた私にとっては受け入れがたい事実となる。
無傷はさすがにありえない。
ちょっとくらい怪我しといてくれよ。
Illustrated by 希鳳
近頃、生活に余裕がなくエロ動画チェックすら怠っていた。
ウラベのブログを久しぶりに覗いたらこんな楽しい事件が起きていたなんて❗
ボクシングや空手で見るKOの多くは膝が崩れるが
たまに後頭部から落ちるあの光景か?
一方で入院中の慶応病院で階段から転落し脳挫傷で亡くなったZARDの坂井泉も思い出した。
無敵の力道山やブルーザ・ブロディの最期は刃物だった。
不死身のウラベとはいえ気をつけてくれ。
エロ動画チェックを怠るとは、兄も落ちぶれたもんだ。
未だに何らかの症状や後遺症を警戒しているが、今のところなんの変化も起きず。
だが予断を許さない状況だと覚悟はしている。
誰も心配してくれないけど。
やっぱり…ただもんじゃないっすねリカさんは…
いや、多分怪我してるんだよ。
まだその症状が現れてないだけで。
今でも警戒してる。