聖女が般若に豹変

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今はもう令和の時代だというのに、いや、時代なんかよりもセレブの象徴たるシロガネーセであるというのに、まさか我が家が「貧乏の象徴」だったなんて考えもしなかった。

今まで散々、コンクリートとガラス張りの壁に加えて、アルミサッシのせいで大結露かつ夏暑くて冬寒いことを愚痴ったり、室内でもダウンジャケットを羽織らなければならないほど極寒だったり、エアコンだけでは室温が保てないためセラミックヒーターを使った「ダブル暖房」のせいで、一か月の電気代が2万円を超えたりと、どう考えても暮らしにくいマンションであることを訴えてきた。

 

だがそれでも、駅からすぐであることや港区白金という土地柄を考慮して、10年以上もの間、この家と共に暮らしてきたわけだ。

いかんせん、コンクリートとガラスでできた部屋に文句を言ったところで、それを改修することなどできない——無論、ガラス全面にプチプチ(半透明の緩衝材)を貼り付けるなど、できる限りの保温に努めてきた。しかし、結露の原因はアルミサッシにあるためプチプチだけでは効果は得られず、結局のところ結露は無視するしかなく、寒さに関しては「重ね着をする」など自助努力の末に温かさを勝ち取るしか方法はないのだ。

 

そして先日、友人からもらった「カピバラのぬいぐるみ風スリッパ」を履いてみたところ、足元がまさかのポカポカになり、驚きと喜びをかみしめるキュートなわたし——。そんな、小さな温もりにすら幸せを感じる純粋な聖女が、とある事実を知った途端に般若の形相へと豹変したのである。

 

 

それは、洗濯機置き場のタイル壁を拭いていたときのことだった。

我が家の作りとして、リビングとベッドルームはパーテーションで仕切られているだけで同じ空間にある。そして、ベッドルームの隣に洗面所兼脱衣所兼洗濯機置き場があり、そこへ接するようにバスルーム(正確には、バスタブとシャワーしかない外国風の洒落たやつ)がある。

これだけ聞くと特に不思議な間取りではないかもしれないが、ベッドルームからバスルームまでの間にドアや壁は存在しない。よって、リビングからバスルームが丸見え。しかもバスルームは一面ガラス張り、おまけにそのガラスがたまに落ちるとあって、命がけで風呂に入るというサバイバルなバスタイムを強いられているのだ。

 

そんなおかしな我が家だが、ふと洗濯機置き場のスペースを囲んでいるタイル壁を磨いていたところ、点検口と思しきパネル上の蓋を発見した。過去にこれを開けたことがあるが、中には乱雑にカットされたコンクリートの穴と、ぐちゃぐちゃに突っ込まれた配線があったので、改めて綺麗に縛り直した記憶がある——思い出すだけでも忌々しい。

そんな怒りを抑えながらパネルの上を拭き始めたところ、どこからともなく冷気が漂ってくるではないか。

(え・・なにこの冷たいい風)

耳をすませばピューピュー音がしそうなほど、明らかに外気が吹き付けている。出所を突き止めようとパネルのフレームに指を当てたところ——ビンゴ。

 

なんと、点検口のパネルの隙間から外気が侵入していたのだ。しかも、パネルを外せば外へ出られるんじゃないか・・と思うほど、それはもう確実に「外の空気」だった。

過去にここを開けたとき、さすがに外へは貫通していなかったが、あんな杜撰な処理であれば外気が入るのも否定できない。それよりなにより、もしも外と繋がっているならばこの蓋をどうにかするべきだろう。タイルカッターで穴を開けた後にフレームをつけて蓋にしたところまではいいが、その隙間から外気が入ってくることで我が家が冷やされているのだから、それを放置するのはいかがなものか。

しかも、ステンレス製のフレームはびしょびしょに濡れている——そう、結露だ。こんなところでも大結露が発生しているのだ。それほどまでに、室内だというのにまるで外のような・・いや、ある意味本当に「外の風」が吹き込んでいるのだから、ここはもはや外なのだ!!

 

——冷静に考えてみれば、これはかの有名な「すきま風」という現象ではなかろうか。貧乏な家のシンボルともいえるすきま風が、なんと、我が家にも吹き込んでいたのだ。

 

 

こうして、般若へと豹変した聖女は目を血走らせつつガムテープで点検口を塞ぐと、怒り冷めやらぬままリビングへと戻った。それから30分後——。いつもならばソファに座っているだけでも足元が冷えるはずが、今はなぜか寒くないではないか。

(まさか・・あのすきま風のせいで、今まで足元が冷えていたというのか?)

 

ふたたび般若に変わりつつある聖女は、溢れ出る殺意を抑えきれないのであった。

 

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