(ここはなんなんだ。似ているわけではないが、なぜか平城京を思わせるような凛とした佇まいを感じる・・)
土曜日ということもあり、人気(ひとけ)の少ない乃木坂周辺を歩いていたわたしは、初めて目にする家屋らしき建物に釘付けになった。
歩道と私有地の間には、見るからに頑丈なスチール製の門扉というかゲートが憚(はばか)り、当然ながら関係者以外の侵入を禁じている。そして、ゲートから数十メートル進んだ先には、質素な造りだが美しいフォルムの表門が控えている。
さらにその奥へ目を凝らすと・・もはや遠すぎて視認できないのだが、鬱蒼と生い茂る樹木に混じり建物と思しき一端が見える——きっと、有名な寺院か何かなのだろう。
じつはこの敷地の隣・・というか数軒先には、旧乃木邸が存在する。よって、偉人や文豪の邸宅跡の可能性もあるが、レンガが敷き詰められた敷地といい、大使館の入り口に設置されているような門衛所(警備員詰所)といい、昔ながらの有形文化財という感じではない。
となると、むしろ昭和後期に建て替えられた寺院か何か・・と考えるのが妥当だろう。いかんせん宗教施設は非課税のため、敷地の維持や建て替えに関して優遇されている。そのため、多くの寺院が立派であったり常に美しい景観を保っていたりするわけだ。
それにしても——あの表門の左側に書かれた八文字は、なんて書かれているのだろうか。
だだっ広い敷地の奥にある、得体のしれない立派な門の左には、その先にある寺院か何かの名称が記されている模様。だが、ここからでは遠すぎてその文字を確認することができない。
もちろん、Googleマップを開けば即解決なのだが、なんというかそこまでするのは面倒くさい。とはいえ、ここがいったい何なのかを知りたい気持ちはあるし、予想以上に長い時間佇んでしまったのも事実。何としてもあの表札(?)の文字が読みたい・・んー、最後が「邸」という字に見えるが、その前の漢字が難しくて読めない。日本人なのに、漢字が読めないのかわたしは——。
「・・スミマセン。ココハ、ナンデスカ?」
ゲートの前で微動だにせず目を凝らしている日本人に向かって、突如、観光客と思しき外国人ファミリーが声を掛けてきた。
あまりに集中しているわたしに、おそらく声をかけるのを躊躇した様子だが、逆に日本人がここまで信念を持って立ち尽くしているのだから、その先に何があるのか知りたくなるのは当然のこと。
しかしながら、当の日本人はその建物(?)が何なのか分かっていない。なぜもっと早くGoogleマップを開かなかったのか、後悔しても時すでに遅し。
・・と次の瞬間、今度は別の方向からやって来た外国人カップルに声をかけられた。先の家族は欧米人だったが、今回はインド系と思われる衣装をまとっている。
こちらもやはり、真剣な表情で仁王立ちするわたしに引き寄せられたのだろう。ここまで日本人を釘付けにする何かが、ここにはあるのだ——と。
そしてわたしは、フリーズした。
畏怖の念を抱きつつも興味津々な表情を浮かべる、純真無垢な外国人ファミリー&カップルに挟まれた哀れな日本人は、極限まで目を細めて八文字の漢字を読み取ろうとするも、どうやっても最後の「邸」しか視認することができない。
あれは、あえて読みにくい字体で書かれてあるのだろうか、はたまた旧漢字か何かを使っているのだろうか。わたしの目が悪いだけでなく、とにかく読みづらい表札になっているのが問題だ——。
とにかく、様々な答えが脳内をゴウゴウと渦巻くも、外国人らの羨望のまなざしに耐えきれなくなったわたしは、ただ一言こう漏らした。
「・・ア、I’m not sure」
こうなったらわたしも観光客のフリをするしかない。いや、かなり無理があるのは承知しているが、それでもやるしかないのだ。
そして、なんともいえない微妙な空気と沈黙の後に、われわれは無言のまま解散したのである。
*
ちなみに、改めてあの場所を調べてみたところ、なんと「衆議院副議長公邸」という場所だった。なるほど、複雑な漢字八文字でできているわけだ・・。




















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