本体の不具合が及ぼす影響

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(しまった、指が動かない・・)

ピアノを弾く者にとって、指を大切にすることなど基本中の基本なのだが、よりによって、指に絶大なる負担を強いる「柔術」という競技に勤しんでいるわたしは、指の不具合にしょっちゅう悩まされている。

とはいえ、明らかに指を怪我した場合はまだマシ。なぜなら、普通にしていても痛みを感じるし、そもそも怪我をしているわけで「痛くて当たり前!」と割り切れる。加えて、その状態で上手く弾けないのは当然であり、あきらめもつくからだ。

 

だが、これは一体どういうことだろうか。つい先日までラクに弾けていた曲が、弾いている途中で腕がパンパンに膨らむほど、力が入ってしまうではないか——。

丸一日練習しなかっただけでこうなるとは思えない。そして、指を怪我しているといっても多少響く程度で、腕が疲労するほどの痛みに堪えながら弾いているわけではない。ではなぜ——?

 

原因は、おそらく「肘」だろう。数日前、柔術の練習中に肘から「メリメリッ」という音が聞こえた後に、肘が90度までしか曲がらなくなったのだ。十中八九靭帯を損傷したわけだが、このくらいの怪我ならば大した影響はないため、その後も柔術の練習は続けた。

だがあれ以来、ピアノを弾くとなぜか左腕——肘から鈍い断裂音を放った側の前腕が、勝手にパンプアップして疲労を感じるようになったのだ。

普通にしていれば肘はまったく痛くない。むしろ、自力で曲げることができないくらいで、痛くなるような角度や力の入れ方をしなければ、なんら普通の肘なのだ。にもかかわらず、ピアノを弾くと前腕が疲れるというのは、どいういう仕組みなのだろうか・・。

 

前腕がパンプするというのは、指や手首を屈曲させたり強く握ったりすることで、前腕の外側にある屈筋群に張りが出ることを意味する。要するに、無駄に指を使い過ぎているからこその結果なのだ。

しかしながら、昨日もおとといもずっと続けてきた動作が、今日突然パンプアップに変わる・・というのはどうも解せない。何か原因あがるはずで、その選択肢の一つとして「肘の怪我」が挙げられる。

だがなぜ、痛くもかゆくもない肘のせいで指を酷使することになるのか——まるで分からない。

 

左右を比較してみても、右腕は普段通り。むしろ、右の親指を突き指しているにもかかわらず、その痛み以外に主だった変化は見られないわけで、やはり指の怪我と前腕のパンプは無関係だと思われる。

ところが、左手に関しては小指を痛めているほかは比較的軽度な怪我——言うなれば「違和感」程度の痛みであるにもかかわらず、鍵盤を叩けば叩くほど前腕がパンパンに膨らむではないか。

(痛みどころか違和感”未満”の異変が、腕の中で起きているのかもしれないな・・)

 

実際にどれが正解なのかは分からないが、おそらく自覚できないレベルの肘の痛み(違和感)があり、それを庇うべく左腕全体が普段とは異なる動きをしているのだろう。

それがたとえば大雑把な動き——物を掴むとか、動かすとか、引っ張るとかであれば、動きが精密ではないからこそ違和感に気づかない。だが、ピアノを弾くという行為は当然ながら繊細さが求められるため、自覚できないレベルの違和感ですら影響を及ぼすのではなかろうか。

 

(ということは、肘が回復するまで練習はしないほうがいいな)

 

そう、こういう場合は「やらない」に徹するのが重要。

そもそも、体や精神の状態が整っていない時点で練習をする価値はない。本体に不具合が生じている状態で練習を続ければ、常に悪い結果しか生まない。そしてそれを繰り返せば、悪い癖を身に着ける練習になるわけで、とんでもない遠回りをさせられることになるからだ。

 

 

ピアノの発表会まで7か月ちょっと——。焦りはあるものの、ここは「我慢という練習のしどころだ」と割り切って、肘の回復をじっと待つわたしなのである。

 

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