この世は因果応報でできているんだ——そう思わずにはいられない、帳尻合わせを体験したのである。
*
「絶対に遅刻するなよ」
そう念を押されたわたしは、前日からすでに「調整」に入っていた。
目的地へ午前11時までに・・いや、10時50分には到着しなければならないため、そこから逆算すると10時15分には家を出る必要がある。ということは、少なくとも9時45分には出かける準備を始めなければ間に合わないから、とりあえずその時間にアラームをセットして・・と。
——こうして、完璧な時間配分で当日の朝を迎えたのである。
(うーん、これは先に説明しておきたい。でも、メッセージを作る余裕もないしなぁ)
とあるクライアントから、丁寧な説明が必要となる質問があった。そして、わたしのモットーとして「何を差し置いても仕事優先」という決め事があるため、その時点でもうすでに10時前だったが、電話にて説明することを決めたのだ。
とはいえ、内容がセンシティブな案件のため、雑な対応でさっさと済ませることはできない。先方の理解具合を確かめながら、納得のいくまで向き合わなければ——。
(やばい、10時10分になった・・・)
とはいえ、11時からの予定も大切である。仕事ではないにせよ、予め予定に入っていたのだから当然守らなければならない。
しかしながら、よりによって汗だくのわたしは、シャワーを浴びなければ人と会うことなどできないほど湿っていた。にもかかわらず、通話をしているとそれは不可能——うぅむ、やむをえない。ここは事情を話して、せめて歯磨きと洗顔だけでも許してもらおう。
こうして、クライアントと会話をしつつ——しかも、わたしの説明がメインであるにもかかわらず、歯磨きをしながらフガフガと話を続けたのである(無論、これについてはクライアントの心の広さに感謝である)。
その後、会話を続けながらも洗顔とコンタクト装着まで終えたわたしは、10時20分に電話を終えた——こ、これは間に合うのか?
(いや・・今は結果を考える場合ではない、とにかくやるしかないんだ)
こうして、全速力でシャワーを浴びたわたしは、マジシャンのごとく早着替えをすると家を飛び出た。
ちなみに、11時からの予定というのが”ブラジリアン柔術のセミナー”だったため、現地での着替えを省略するべく、自宅から道衣姿で向かったのである。
運動が好きではないわたしだが、とにかく全力でアスファルトを蹴り続けた。散歩途中の犬が驚いて横っ飛びするほど、ものすごい剣幕とスピードで走り続けたわたしは、巷では「道着姿で疾走する、鬼の形相のシロガネーゼ」として都市伝説化した可能性がある。
だがその結果、横断歩道に差し掛かる直前で信号が青に変わったのだ——ツイてる、ツイてるぞ!!
そして、ダッシュで横断歩道を駆け抜ける途中、先頭で停車しているタクシーが空車であることを発見した——やばい、これはツきすぎてる!!
こうして、すかさずタクシーに乗り込んだわたしは、公共交通機関ならば30分かかるところを、その半分である15分で移動に成功したのである。
しかしながら、じつはここでも奇跡的なラッキーが続いた。なんと、我々の足を引っ張ってやろうと手ぐすね引いて待ち構える信号たちが、最後の交差点以外はすべて青だったのだ。
おまけに通りは国道一号(第一京浜)、泣く子も黙る立派な幹線道路である。それなのに、およそ3キロの道のりでたった一回しか信号待ちをしなかったのだから、まさに奇跡といえる。
——こうして、目的地付近のコンビニに寄る余裕まで確保したわたしは、遅刻どころかピッタリ10分前に入館を果たしたのである。
*
ちなみに、物語はここで終わらなかった。なんと、まさかの「高級梨をもらう」という超幸運に恵まれたのだ。
梨といえば、わたしの好物ランキング上位の果物。潤沢な水分と爽快な歯ごたえに加えて、皮ごとかぶりつける食べやすさも兼ね備えた梨は、秋の始まりに相応しい逸品である。
加えて「高級」というわけで、そのお味と食感はいかほどのものなのか——あぁ、想像しただけで口の中がヨダレの洪水に見舞われたではないか!
*
というわけで、他にも小さなラッキーは続いたのだが小さいので割愛する。
とにかく、何事も誠心誠意対応すれば、必ずやその報いを受けられる・・というか善果をもたらすということを、偶然の積み重ねだけでなく「物理的」にもハッキリと確信したのであった。
(善果の「果」は果実の「果」——つまり、善い行いが高級梨となって返ってきたわけだ。ウッヒッヒ!)
コメントを残す