毎年、夏になると——目安としては「飲食店でかき氷が登場する季節」を夏として——思うことがある。
むしろこれは悩みといってもいいくらい、かき氷の季節を迎えると「正しい答え」を知りたくなるのだ。
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実際に器に盛られた削り氷のみならず、〇〇フラッペなどのフローズンドリンクもそうだが、「冷やし中華始めました」の看板同様に、夏になるとヒトを引き寄せる力を発揮するのが氷菓子。そんな魔力に手繰り寄せられるかのように、わたしはコメダ珈琲店へと誘い込まれた。
現在、”コメダ名物かき氷”を絶賛販売中のコメダ珈琲店。新たにお目見えした2種類のフレーバーを加えた合計4種類のラインナップは、ややもすれば「かき氷専門店」としてやっていけそうなほど神々しい輝きを放っていた。
まずは「宇治抹茶」に関して、”抹茶の化身”と崇められるわたしが入店前から注文を決めていたのは言うまでもないが、新たに登場した「チャイ氷」という響きも捨てがたい。そもそも「チャイ味のかき氷」というものを聞いたことがないし、インド土産でもらった粉末チャイを飲んでから、じつは密かにチャイ好きになったわたしは、日印対決をするべくチャイ氷も注文することにした。
さらにもう一つ、「グッピーラムネ氷」という真っ青な山からも目が離せない。普段から、炭酸飲料のラムネのみならずラムネ風味の菓子すらも食べないわたしだが、かき氷となると話は別。冷たい氷とラムネの爽やかさは親和性が高いうえに、どうやら氷の下にラムネ味のゼリーが敷かれている模様——これは是非とも試さねば。
こうして、3種類のかき氷を選んだわたしは、さらに「ホットミルク」を追加することで注文を終えた。そう、このホットミルクこそが重要な役割を果たすのである。
かき氷が持つ破壊力は想像以上である・・という事実を、われわれはつい忘れがち。そして、いい気になってかき氷を搔っ込むと、そのうちじわじわと体内の温度が下がり末梢性チアノーゼを発症する。そんな時に、このホットミルクを啜ることで延命が可能となるのだ。
勿論、温かい飲み物であればなんでもいいのだが、かき氷との相性でいうとホットコーヒーよりもホットミルクに軍配が上がるため、ここはホットミルクにて暖を取るのが正解だろう。
そんなこんなで、かき氷が到着する前にもう一つの”やるべきこと”を思い出したわたしは、おもむろにリュックからカーディガンを取り出した。もはや説明するまでもないが、夏場にかき氷を食べる際の戦闘服・・といっても過言ではないくらい、このカーディガンは生命維持の補助(すなわち保温)として効果を発揮してくれるのだ。
外は30度を超える暑さである上に、湿度の高さも相まってかなりの薄着となるため、そのままの格好で冷房の効いた店内へ入りでもすれば、10分足らずで鳥肌とチアノーゼに見舞われることになる。殊に”暑がりかつ寒がり”という両極端な性質を持ち合わせたわたしは、この戦闘服なしでは夏場のかき氷と戦うことはできない。
そんなことからも、かき氷に真っ向から挑むべく颯爽とカーディガンを羽織ると、わたしは臨戦態勢を整えた。
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味については想像通りの美味さであるため割愛するが、かき氷3つを食べ終えたわたしは、改めてこう思った。
(・・・さ、寒い)
当たり前だが、冷房でキンキンに冷えた店内において、ホットミルクと薄手のカーディガンを羽織った程度で寒さを凌げるはずがない。おまけに、下半身は短パンにビーチサンダルという圧倒的な露出度で、外からは冷房・中からはかき氷のダブル冷却攻撃をくらい続けた結果、寒くならないはずがないわけで。
そして、ついに生命の危機を感じたわたしは、暖を取るべく店を飛び出した。
——たしか、昨年の夏もそう・・いや、10年前からそうだった。かき氷を食べるたびに、店を飛び出してはその辺りを走り回って体温を上げるわたし。このように、幾度となく敗北を喫してきたはずなのに、どれほど用意周到に挑もうが一度足りともかき氷に勝てた試しがない。
体表面は上着で保温し、体内は温かい飲み物で調整。これ以上ないほどの配慮をしているにもかかわらず、かき氷を食べると必ず外を駆けずり回らなければならないなんて、単なる罰ゲームじゃないか。
「一つにすればいいんじゃないの?」
真剣に悩むわたしに向かって、レモネードを啜りながら友人がそう言い放った。そうか、3つ食べるから保温が間に合わないのか・・。
だが、そもそも食べる量をセーブできるならば、上着やホットドリンクの配慮は不要だろう。あくまで複数のかき氷を食べたいからこそ、できる限りの努力と武装をして挑むわけで。
(要するに、正しい答えはないってことか)
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かつて、洒落たカフェで新聞紙に包まりながら暖を取ったわたしに、これ以上の正答があれば助言を願いたいのである。
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