自作自演、「9年間のセルフ架空請求」を終えて

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「他人の目を通して物事を確認する」というチェック方法は、思っている以上に必要な行為である・・と、再認識させられる事件(?)に遭遇した。

なぜなら、自分では気づかないミスの一つや二つを平気でやらかすのが、ニンゲンという不完全かつ未熟な生き物だからだ。

 

 

新たなパソコンが自宅に届いてから、はや二週間が過ぎようとしていた。にもかかわらず、宅配業者の兄ちゃんから受け取った段ボール箱を、油染み一つ無いガスコンロの上にスルーパスしたまま、ただただ時間だけが過ぎていったのだ。

その間、わたしは極度のプレッシャーとストレスで不快な日々を強いられた。ややもするとメンタルが崩壊するのではないか・・と本気で悩むくらい、ガスコンロの前を通過するたびに舌打ちとため息が出る憂鬱な毎日だった。

 

ところが今日、瀕死状態のわたしの元へ救世主が現れた。

 

新旧パソコンの入れ替え作業というのは、一人で行うのが精神衛生上もっとも良くない環境といえる。よって、何もせずとも誰かがそばで見守っていてくれるだけで、なんとなく作業は捗るものなのだ。

「あー、パスワードが分かんないや」

「プログラムが実行できないんだけど・・」

数年に一度の“引っ越し“ゆえに、十中八九、愚痴か文句しか口をついて出てこないわけだが、誰かといればそれすらも楽しいコミュニケーションとなる。「私もわかんなーい」「こういうのって、ほんと面倒だよねー」などと、適当に相槌を打っておけば会話はピタリと成立し、なんとなく苦難を乗り越えた感が出るから不思議である。

 

そんな前途多難な入れ替え作業の序盤で、わたしは”まさかのミス”を犯していたことに気がついた——いや、作業の指揮をとっていた助っ人が気づいてくれたのだ。

「なんで、Norton(ノートン)で二種類の契約をしてるの?しかも4台のパソコンを保護してるけど、いったい何台持ってるの?」

 

Norton(ノートン)とは、米国企業が提供する有名なセキュリティソフトのブランドだが、今から十年以上前にわたしはNortonのライセンスを購入し、その二年後に新たなライセンスを別途購入し、結果的に二種類のセキュリティ対策を施していた模様。

しかも、最初のライセンス購入時に登録したであろうパソコンは、今となってはどこにあるのかも分からない——言い換えれば、「この世に存在しないパソコン」だった。にもかかわらず、9年間もの長きにわたり自動更新によるライセンス延長を繰り返し、存在しないパソコンをウイルスの脅威から守り続けてきたのだ。

更新にかかる費用は年間8,000円——考えただけでも気が遠くなりそうである。

 

ちなみに、もう一つのライセンスに登録されている3台のうち2台は、ほぼ使われていない予備のパソコンなので、最も使われていない“お古“の登録を削除して、今回購入した一台を追加する予定だった。

もちろん、結果的にそうやって新旧交代させたわけだが、本来ならばこれだけでよかったはずの作業が、「もう一つの謎契約」という驚愕の事実を突きつけられたことで、ストレスフルを通り越して茫然自失となったわたし。

(・・いや、今日気づいてよかったではないか。その日暮らしのわたしにとって、7万2千円という多額な出費が痛すぎるのは事実だが、それでも「8万円を持っていかれなくてよかった」と思えば、ラッキーな発見だったじゃないか)

 

過去を悔やんでも取り返しはつかない。未来に向かってどのような心持ちでいるべきか・・を考えれば、おのずと「今日気づいてラッキーだった」という選択肢にたどり着くわけで。

しかもこれは、わたし一人で入れ替え作業を行っていれば、もしかすると気づかずにスルーしていたかもしれない。なぜなら、この9年間で二度パソコンを買い替えているにもかかわらず、二つのライセンス契約を継続していることなど知らなかったのだから——。

 

(そうだ、わたしはラッキーだったんだ!!)

 

 

パソコンの入れ替え云々よりも、9年間支払い続けた「架空のパソコンに対するライセンス使用料」のほうが、本気度の高いダメージとなってわたしに襲いかかった。

 

そういえば過去に、「死んでいる人間へ年金を払い続けていた」というニュースを聞いたことがあるが、まさにアレのセキュリティソフト版をわたしがやっていたのである。

あぁ、これこそが「無知で無関心が引き起こす、無駄かつ無意味な愚行」ってやつだ——。

 

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