現実的にはレアなケースだからか、わりと知られていない・・というか、まさかそんなことができるの?!という意外さがあるのが、雇用保険の一つである育児休業給付金だ。どこが"意外"かというと、育休中に転職をしても育児休業給付金を継続受給できる・・という点である。
雇用保険といえば、通称「失業手当」と呼ばれる給付(正式名称は基本手当)が有名。だが、こちらは失業中の生活費のようなものなので、再就職が決まれば給付も終わるのは当然のこと。とはいえ、再就職が早かった場合で一定の条件を満たしていれば、「再就職手当」という形で残りの給付金の一部を受け取ることができるからご安心を。
余談だが、これまでは「就業手当」なるものが存在した。これは、再就職手当がもらえない雇用形態で就職が決まった場合——具体的には、パートやアルバイトといった正規雇用ではない再就職の場合に受給できる手当だったが、今月から廃止されたので注意されたし。
そして、雇用保険における「失業等給付」に匹敵する柱が「育児休業給付」だが、こちらは逆に失業状態ではもらえないので、在籍者が対象となる点が前者とは異なる。
育児休業給付の目的は、女性の出産離職を防ぐべく雇用継続をサポートすることにある。働く女性にとっては、出産・育児と仕事の板挟みで離職を余儀なくされるケースも多く、数年のブランクを経て社会復帰をするのは、キャリアアップの観点からは想像以上に困難といえる。そんな女性の不安を解消するべく、育児休業給付という所得保障制度が存在するのである。
しかしながら、育休開始時に在籍している会社へ残るために、(ノーワークノーペイの原則を補完するべく)育児休業給付金があるとすると、育休中に転職などしたら給付金は打ち切られてしまうのでは・・と考える人も多い。
そもそも、「今は育休中なのですぐに働くことはできませんが、育休が終わったら頑張ります!」という者と、「明日からでもすぐに働けます!」という者がいたら、企業としてはすぐに仕事に就けるほうを採用するだろう。無論、相当な能力や技術を持っていれば別だが、一般的な"採用"は人員補充の意味合いが強いため、即戦力となる人材を欲するのはやむを得ないこと。
だがそれでも、何らかの理由で育休中に新たな就職先が決まった場合、前職の退職日の翌日に新たな会社へ就職すれば・・というか、雇用保険の被保険者期間が途切れることなく繋がれば、新たな会社を通じて育児休業給付金の申請ができる。
要するに、在籍する会社に居続けることが目的というより、雇用保険の被保険者であること——言い換えれば、どこの会社であろうが就業を継続するために、育児休業給付の制度があるのだ。
せっかくなので、ちょっとだけ実務の話に触れておこう。
育児休業給付金の支給単位期間が「当月21日から翌月20日まで」の者が、前職を月末に退職したとしよう。そして、次の会社に翌日である1日に入社して同日付で雇用保険の被保険者となった場合、新たな会社を通じて前月21日から31日までの育児休業給付金を申請・受給することができる。
その後は、支給単位期間が「当月1日から末日まで」に変更されるので、期日が到来したら新たな会社経由で申請・受給することとなる。よって、これまでは最速で21日に申請していたものが、これからは1日に申請する・・となるわけだ。
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雇用保険制度は、雇用保険被保険者のセイフティーネットとして存在するわけだが、自営業や会社役員はその恩恵に与れないため、「雇われるって素晴らしいことだな」と指をくわえて羨ましがる者もいるかもしれない。
そしてわたしは、約10年間納付してきた雇用保険料を引き出すことなく——正確には、失業等給付や育児休業給付として受給することなく自営業を開始したので、今さらながら「なんとかしてもらっておけばよかった」と悔しがるのであった。
そんなわけで、雇用保険被保険者の皆さんは、是非とも雇用保険を使い倒してください。
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