わたしの体内というか脳内で、不思議な変化が起きている。いや・・とくに不思議というわけではなく、当たり前といえば当たり前なのだが、それにしても妙に便利なこの変化に、驚きを隠せずにいるのだ。
その変化とは「時差ボケ」である。しばらく海外にいると、どうしても向こうの生活リズムが身に付いてしまい、帰国するとそのラグに苦しまされる・・それが一般的な時差ボケといやつだ。
しかし、これまで何十回と海外渡航を繰り返してきたが、ジェットラグを強く感じることは一度もなかった。むしろ、帰国初日ですぐに日本の生活リズムに戻せていたので、「わたしの視床下部は高い順応性を備えている」と、見えない脳内に誇りを感じていたほど。
そして御多分に漏れず今回も、時差を感じることなく過ごせたアメリカ滞在だったわけで、その理由は「日本での生活リズムがアメリカ時間に合っていたからだ」と勝手に推測していた。なんせ、朝の8時に寝て昼の12時前に起きるのだから、日本標準時における生活リズムを無視した睡眠時間がわたしの日常だったからだ。
ちなみに、サーカディアンリズム(概日リズム)という体内時計は、純粋に「時間」に対して24時間周期のリズム信号を発振するのだと思っていた。要するに、日本時間の午前はアメリカでいうところの夕方なので、"遅い昼寝が、わたしの睡眠時間になるだろう"と、日本時間をスライドさせた時刻に眠くなるものだと思っていたのだ。
ところが実際には、ラスベガス時刻の早朝から朝にかけて眠くなっていた。要するに、日本と同じ時間帯で眠気を感じていたのである。とはいえ、毎朝なんらかの予定が入っていたため、強制的に朝起きなければならない事情があったのも確か。それでも、なぜか眠くなるのは夜明け前だった。
おまけに、午前に予定がない時は明け方就寝して昼前に目が覚めるのであった。アラームをセットしなくても・・というか、セットしたアラームよりも先に、自動的に目が覚めるという便利で奇妙な体内時計が働いていたのだ。
まぁこれは、友人宅でお世話になっていたので、彼ら彼女らに迷惑をかけないようちゃんとしよう——という、まっとうな精神による後押しがあったからかもしれないが、とりあえずネバダ州の標準時に沿って健全な生活が送れたことに、安堵と感謝を抱いていた。
そして無事に帰国を果たしたわたしは、なぜか日をまたいだあたりから強烈な睡魔に襲われるようになった。そのため、起床は午前4時・・5時という超健康的なサーカディアンリズムが刻まれるようになったのだ。
しかも深夜1時を過ぎると、どう頑張っても起きていられないほどの眠気にやられて、気付くとソファや床の上・・という、まさに寝落ち状態で目を覚ますのである。慌てて時計を確認すると午前4時半——あぁ助かった、すぐさま仕事にとりかかろう。
そんな感じで、願ってもいない最高の就寝・起床時間がわたしのカラダに刻み込まれたのである。
こうなると、サーカディアンリズムというやつは何を基準に時を刻んでいるのだろうか——という疑問にぶち当たる。厚生労働省e-ヘルスネットによると、
「体内時計細胞では幾つかの遺伝子(時計遺伝子)が時計蛋白を合成し、それらが相互に結合し、また分解されることを約24時間周期で繰り返しており、このような遺伝子活動から体内時計の概日リズム信号が生じているようです。」
とされているが、先月までのわたしの体内時計とアメリカでのそれと、そして帰国後の体内時計の微妙なズレというか好循環への微調整は、いったい何によるどのような影響なのだろうか。
とはいえ、いずれにしても日常生活に支障はでないわけで、それどころか深夜に寝て早朝に起きるという、願ってもいない健全な生活リズムを得られたわたしは、すこぶる満足している。
この感じだと、どの国へ行っても適切な時間帯での睡眠と起床を実行できるので、仕組みは不明だが「便利なサーカディアンリズムを会得している」といえる。にしても、こんな便利な・・というか、こんな見事な適応力をみせるものなのだろうか? 時差ボケというやつは——。
コメントを残す