ヤバい奴になれば舐められない
これこそが信念ともいえる私。
どうすればヤバくなれるのかをレクチャーする機会はなかなかないものだが、偶然にもそのチャンスが到来した。
エリートアスリートの後輩が、現在の職場における悩みを打ち明けてくれた。
「休み時間に聞かされるグチで疲れちゃいます」
しかもグチというより仲間の悪口らしい。
「そうですかーって流すけど、聞きたくないです」
後輩は心のきれいな素直な子だ。
あふれ出る天使感と純粋さゆえ、薄汚れたババァどものグチのはけ口となっている模様。
その場に私がいれば鉄拳制裁を加えるが、それができない無念たるや。
そこで彼女に、とっておきの妙策を伝授した。
私の得意とする必殺技、その名も「目玉リレー」。
まず、グチが始まったらババァに向かい姿勢を正す。
顔の向きはそのまま、両目で左側を見る。
左目だけをゆっくりと中央へ移動させる。
寄り目の状態になったら、次は右目だけをゆっくりと右側へ移動させる。
すると両目で右側を見ている状態となる。
最後に、ここまでの逆の動きで左側まで目玉を戻す。
この眼球運動=目玉リレーを5回ほど繰り返す。
BGMがババァのくだらないグチというのが耳ざわりだが、最初の寄り目の時点で
「なにしてんの?」
となる。
まず十中八九、こう聞かれる。
そのまま無視して目玉リレーを続けると、
「うわー、すごーい!」
となる。
まぁこの流れで「私にも教えて」となればグチが終わるのでラッキーだ。
図太い神経でグチを続けるババァでも、さすがに2往復目となると
「私のはなし聞いてる?」
と苛立ちを隠せない。
だがそこはスルー。
もし、
「ちょっとなに無視してんの?」
と突っかかられたら、
「眼球トレーニングしてるんで邪魔しないでください」
と言ってやればいい。
「悔しいなら私よりスムーズな目玉リレー見せてくださいよ」
と煽ってもいい。
とにかく、相手の興味を引くことができればグチは終わる。
*
聞いてほしい欲求が満たされない場合も、グチは終わる。言葉を発しない分、個人的にはこちらのほうが好みだ。
私は相手を見つめながら徹底的にシカトをする。
相手から逃げてはダメだ。
その場をいそいそと離れたり、目を反らして聞いていないフリをしたり、これでは「次回」がある。「今回」で確実に終わらせるためには、相手と向き合う必要があるのだ。
まずは相手と対面し、全力で目玉リレーを行う。だが稀にこの行為を中断させるツワモノがいる。
そこで次の手段として、単独で「寄り目」を実行する。
寄り目のポイントとしては、目を大きく開いた状態で行うこと。
そうすることでヤバさが増強する。
さすがに、渾身の寄り目を披露している人間にグチをこぼせるメンタルの持ち主は、今まで出会ったことがない。
しかし寄り目は外眼筋を酷使するため、長時間の維持は困難だ。
そこで、離れ目と交互にトライすることをお勧めする。
「離れ目」を意図的に完成させることは目の構造上不可能。にもかかわらず離れ目にトライすると何が起きるのか。
目を大きく開き、ただただ正面を見つめる私がいるだけだ。
これは意外と恐ろしい。
「な、なに見てるの??」
瞬きもせず、ものすごい目力を放ちながら凝視されるわけで、相手はかなり怖じ気づく。
そして相手の質問すら無視していると、自然とうつむき会話は消える。
会話が消えてしばらくすると、相手も消える。
こうしてグチからも解放され、それどころか二度と無意味な会話を振られないポジションを築くことができるのだ。
*
これらの「妙策」を実行するにあたり、最初の数日はつらいかもしれない。
同僚から、
「あの子ヤバいよね」
と陰口を叩かれるわけで。
しかし一週間もすればその噂もおさまり、晴れて「ヤバい奴」に認定される。そうなればこちらの天下だ。
もう、くだらないグチに付き合わされることも、他人の悪口を聞かされることもない。
その仕事、その職場にお金を稼ぐこと以外の価値を見出せないのならば、ヤバい奴で十分。
なぜならキミには他にすべきことがあり、そんなくだらないことで心を痛めている場合ではないからだ。
Illustrated by オリカ
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