業務連絡、赤い悪魔のタンブラーについて

Pocket

 

(もしかすると・・いや、絶対にマークされてるに違いない)

 

都内にある何カ所かのスタバで、わたしは完全にマークされている気がする。それはクレーマーとしてかもしれないし、あるいは優良顧客としてかもしれない。

とはいえ、そんなことを問いただしたところで正解を教えてくれるはずもないわけで、聞くだけ無駄なのだが。

 

 

スターバックスコーヒーのタンブラー部員であるわたしは、今日もせっせと部活動に励んでいた。

なんせわたしのタンブラーは、日本では売っていない代物である。クウェート土産のグランデサイズの真っ赤なタンブラーは、どこの店舗でもチヤホヤされるのだ。

「素敵なタンブラーですね!」

「このデザインや大きさは、初めて見ました!」

そんな称賛が飛び交う中、わたしはお気に入りのタンブラーで何杯もおかわりするのがルーティン。

 

ところが一つだけ問題がある。それは「店舗でタンブラーの洗浄は行わない」というルールだった。

コロナ対策とかなんとか言われているが、明らかに二杯目や三杯目を注文するならば、サッとすすぐくらいの妥協の余地はないのだろうか。

 

店舗によっては「トイレの水道を使って洗ってもらえれば・・」と提案されることもあるが、なにが悲しくてトイレでタンブラーを洗わなければならないのか。

コソコソとまるで悪いことでもしているかのような行動に、顧客はどこか虚しさを覚える。そこまでして二杯目をタンブラーで注文する意味・・というか楽しみは、さすがに感じられないわけで。

 

そんなことをぼやいていたところ、頻繁に通うスタバ三店舗で異変が起きた。いつものごとく、ダメ元でおかわりのタンブラーをレジへ持って行ったところ、

「洗浄はできませんが、お値引きはさせていただ・・・」

そう言いかけた若手スタッフの言葉を遮るかのように、ベテランスタッフが割り込んで来たのだ。そして、

「こちらのタンブラー、すすがせていただきますね!」

と、使用済みのタンブラーをかっさらうと、すぐさまシンクで洗い始めたのだ。

 

本部からの通達としては「原則、タンブラーの洗浄は禁止」なのだろうが、場所によっては「それではさすがに客がかわいそうだ」ということで、各店舗の判断で洗浄を受け入れているのだろう。

だが、この店舗は以前からタンブラーの洗浄はNGだったはず。それなのにいきなり、わたしのタンブラーを見るなり手の平を返すとは、なにか嫌な予感がした。

 

そして、極めつけはこのセリフだった。

「いつもご利用、ありがとうございます!」

これは明らかに、わたしをわたしと認識した上での発言である。要するに、通常の顧客に対しては原則通りタンブラー洗浄を断るが、要注意人物に対しては例外として、タンブラー洗浄を認めているのではなかろうか——。

 

さらにこれらの変化は、わたしが足繁く通う三店舗でほぼ同時に起きたのだ。まさか、これらの店舗同士で繋がりがあって、

「あの赤いタンブラーのやべぇ奴、あいつのは黙って洗浄しておこう」

という業務連絡が回っている・・なんてことはないだろうな——。

 

日頃から会話を交わすような、つまり、わたしも認識している店員ならばまだしも、少なくともわたしは相手の顔を覚えていないレベルの関係性にもかかわらず、わたしのタンブラーを見るなり洗浄を申し出るというのは、明らかに違和感を覚える。

これはタンブラーが原因なのか、それともわたしが要注意人物としてマークされているからなのか、はたまた両方なのか・・いずれにせよ、わたしの特徴が「やべぇ奴」としてバックヤードに貼りだされている可能性を否定できない——。

 

(こうなったら、バイトで潜入するしかないな・・・)

 

 

ことの真相を解明するべく、わたしはスタバのバイトを真剣に検討するのであった。

 

Pocket