脱水が終わった衣服を干すべく洗濯機の前に立ったところ、わずかな異変のようなものを感じた。シーンとしている洗濯機だが、どこか嫌な予感が漂っているのだ。
とはいえ、パッと見ではどこもおかしくないのだが、なんだろうこの違和感は——。
とりあえず洗濯機の蓋を開けようとしたところ、なぜかびくともしない。洗濯機が止まってから数秒間はロックがかかっているが、まるでアレと同じ状態だ。だが洗濯機は30分前に止まっているので、いまだにロックがかかっているとは思えないし、実際にロックは解除されていた。
(・・・ではなぜ、フタが開かないんだ?)
とその時、視界の端っこに見慣れぬ白い物体が入り込んだ。それは、洗濯機の蓋の端からチョロンとはみ出た、まるで白いミサンガのような紐だった。——こんなものが挟まっていたから、フタが開かなかったのか。
ミサンガなど着けていないし洗濯をした覚えもないが、衣服を干すためには蓋を開けなければならないので、わたしはおもむろにミサンガへと手を伸ばした。
(と、取れない!?)
なんと、ミサンガが蓋の隙間にきつく挟まっているため、引っ張っても取れないではないか。力任せに蓋をこじ開けようにも、ガタガタするだけで口を開こうとしない。
とはいえ、そもそもこんなミサンガなど身に覚えがないわけで、こいつを引きちぎってでも蓋を開けるしかないのは明白。よし、ちぎるか——。
そこでわたしはミサンガを握ると、勢いよく引き抜いた。さすがに一度では切れなかったが、二度三度と引っ張るうちに脆くもミサンガはちぎれた。それと同時にわたしは軽く後ろへ吹っ飛んだ。
(・・・せ、洗濯ネットの紐じゃないか!!!)
そう、白いミサンガだと思っていた紐は、洗濯ネットをキュッと縛る紐の先端だったのだ。どうやらわたしが衣服を洗濯機に放り込んだ時、紐がチョロンと出ていることに気がつかずにそのまま蓋を閉じてしまった模様。
そういえば途中で、ガタンガタンと物凄い音をたてながら洗濯機が四方八方へ動いていた。だがそんなことはよくある光景なので、いつものごとく無視をしたわけだが・・。
(脱水は、もの凄い勢いで回転しながら水を弾き飛ばすから、そのときの高速回転でこんな立派なミサンガが出来上がったということか)
引きちぎったミサンガのみならず、洗濯ネット本体の紐も見事なミサンガが形成されていた。右回転、左回転、他の洗濯物と揉みあい絡み合いながら、長い時間をかけて洗濯ネットの紐はミサンガへと変身したのだ。
とりあえずこの強力な編み込みをほどこうと、引きちぎった部分を確認する。・・うぅむ。なんとも複雑かつ頑丈に編み込まれているではないか。
一本の紐が何百回・・いや何千回とねじられたため、洒落た靴紐のようなデコボコのデザインになっている。そのデコボコの紐同士が絡み合い、さらに太いデコボコの紐を形成している。
そして、太いデコボコの紐がねじれてねじれてねじれて、ねじれまくってミサンガを完成させたのだ。
絡みあった紐をほどくも、すぐさまクルクルと元の形へ戻ってしまう。ほどいてもほどいても、まるでねじれた状態が本来の姿であるかのように、あっという間に洗濯ネットの紐はミサンガへと姿を変えるのであった。
(このままでは、ネットの中身を取り出せないじゃないか)
とはいえ、引きちぎった紐と残っている紐の長さは半々といったところで、見事にねじれをほどききったとしても、コードストッパーが邪魔で使い物にならない。
洗濯ネット自体はまだまだ使えるが、ストッパーがないとなると洗濯袋としては不便である。かといってわざわざ買い直すのも気が引けるし——。
*
・・などと、洗濯物を干す前に出鼻をくじかれた深夜であった。
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