最近、近しい人間で似たような症状——具体的には、めまいにより生活に支障が出るといった——を発症する出来事が連発した。しかも不思議なことに、症状は同じであるにもかかわらず全員異なる病名だった。
ある友人は、良性発作性頭位めまい症と診断された。これはわたしも経験があるので、めまいの濁流感やそれに伴う混乱度合いは想像に難くない。
そういえば、わたしが最初に発作を体験したのは回転運動をしている最中だったので、自分自身が回っているのか目が回っているのか、しばらく判断できなかったことを思い出す。それでも幾度かの発作を経て、どうすればめまいが治まるのかを理解したわたしは、確実にめまいを早期収拾させる術を身につけたのである。
この発作に関しては、物理的な原因により引き起こされるものなので、その物理現象を取り除ければめまい発作は治まる。さらに、じっとしているよりも体を動かしているほうが耳石を動かすのに好都合なため、病気というよりも単なる発作——たとえばしゃっくりや、(長時間の正座による)足のしびれと同類の症状として捉えておくほうが、気分的にもラクかもしれない。
それでも発作中はグワングワンと目が回る、いや、地球が激しくシェイクされる感覚により起立は困難となるので、めまいが治まるまでは寝転んでおくのがいいだろう。
・・そんな過去のめまい発作を思い出しながら、一通のLINEが届いたので開いてみた。それはピアノの先生からだった。
「昨夜からめまいがひとく、歩行もできず救急搬送されました。病名は"前庭神経炎"ということで、本日のレッスンを休講させていただきます」
なんと、先生がめまいに倒れてしまったのだ。
前庭神経炎は、突然の激しいめまい発作を特徴とする病気で、前庭神経という"平衡感覚のコントロールを支える第8脳神経の分枝"の炎症によって引き起こされる。
前出の"良性発作性頭位めまい症"は、比較的短時間でめまい発作は治まるが、前庭神経炎は数日から一週間ほど強いめまいや吐き気に襲われるのだそう。こちらは服薬と特殊な理学療法による治療に加えて、安静が推奨されているので入院する場合もあるとのこと。
とりあえず、「力仕事が必要な場合はすぐに連絡ください」と返信をすると、しばらくピアノの練習がサボれることに密かに安堵した。
・・そんな邪な考えにニヤついていると、母親からLINEがあった。
「(親戚の)おばちゃんがひどいめまいで病院に行ったら、メニエール病って診断されたって」
まさかのめまい三連発である。メニエール病の症状に苦しめられるおばちゃんには失礼な話だが、ここまでめまい発作が連鎖するとは驚きである。
念のため、メニエール病とは激しいめまい発作を繰り返したり、難聴や耳鳴りが起きたりするのが特徴で、内耳に存在するリンパ液量の調整がうまくいかず、液量過剰により発作症状が現れるのだそう。
こちらの治療も対症療法のみで、投薬と安静が原則のようだが、ストレスや睡眠不足、過労などが原因で引き起こされる場合もある模様。
それにしても、めまいがメインの症状となる病気はいずれも予兆がないため、天地がひっくり返るような発作に見舞われることで突如スタートする。さらに、自分にしか分からない症状(強烈なめまいや耳鳴り、吐き気、ふらつき)というのも、他人に伝えることのできない不安を煽る要因かもしれない。
だがいずれも内耳の障害なので、「自分がおかしくなってしまった!」などとパニックに陥らないでもらいたい。発作発生までの経緯は不明でも、発作の原因ははっきりしているため、それ相応の対処をすることで症状を落ち着かせることができるからだ。
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——しかしながら、同じめまい発作でも病名がかぶらなかったことに、わたしは密かに驚いた。しかも同じ日に三人も・・・。
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