地面を舞う枯れ葉  URABE/著

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(・・・おぉ)

近所のカフェで優雅にコールドブリューを味わっていたところ、ガラス張りの壁の向こうを一枚の枯れ葉が舞った。

まだ9月の半ばだが、もう秋が近づいてきたのか——。

 

タンクトップに短パン姿のわたしからすると、なんともミスマッチな光景ではあるが、季節というのは無情にも過ぎ去っていくもの。こうしてあっという間に冬となり、気が付けば春の足音が聞こえてくるわけで。

それにしても、ここら辺には樹木が見当たらないが、あの枯れ葉はいったいどこから転がってきたのやら。

 

 

(や、やべぇ!!!)

オレは焦った。見慣れない外の世界に気を取られて、ついつい迷子になっちまった。かぁちゃんともはぐれちまったし、どうすりゃいいんだ。

にしてもなんなんだ、このすべてが巨大な世界は!どこまで行ってもオレくらいのサイズの生き物は見当たらないぜ。

 

ところで巨人どもは、誰一人としてオレに気付かないなぁ。全員こっち見てるのに、なぜかオレを襲ってこない。なんか黒い画面を見ながら歩いてるせいか、地面でじっとしてるオレは目に入らないらしい。

ってことは、あの黒い四角が巨人どものエネルギー源なのか?オレたちは、どんな状況でも生き延びられる構造だけど、こいつらはきっと弱い生物なんだろうな。あんなものをかざしてなければ生きていられないなんて、なんとも哀れな奴らだ。

 

(うわっ!!!)

あっぶねー!危うく踏みつぶされるところだった。あいつ、足元見てないからオレの存在に気が付かなかったんだ。一歩でも逃げ遅けれてればオレは死んでたかもしれねぇわけで、この世界は油断も隙もあったもんじゃない。

 

それにしても、オレの家はどっちだ?さっきから同じような景色しか見当たらないし、どっちへ行っても行き止まりだ。おまけに、地面が硬くて隠れる場所もないときた。

あぁ、かぁちゃん迎えに来てくれよぉ・・・。

 

 

(・・・違う、あれは枯れ葉じゃない。ゴキブリだ)

アイスコーヒーを飲む手が一瞬止まった。風に吹かれてヒラヒラと舞っていたアレは、枯れ葉なんかじゃない。ゴキブリだ。

しかもまだ子どものゴキブリと思われる。なぜなら、甲羅の黒さに初々しさが残っているからだ。さらにあのおぼつかない足取りは、おおかた親とはぐれてピーピー泣いてるのだろう。

 

それにしてもアイツらは、なぜこんな敵の多い場所に現れるのだろうか。「ボクを見つけて、踏みつぶしてください!」と言っているようなものだ。

おまけに帰り道がわからないのか、さっきからウロウロと同じ場所をさまよっているではないか。どおりでわたしの視界から消えないわけだ。

 

それにしてもゴキブリは、予想以上に色んな場所に棲みついている。しかも春夏秋冬に関係なく、いつでもどこでも出現する図太さを持っているから素晴らしい。

われわれ人間は、あんな数センチの黒い塊に脅かされ翻弄されているわけで、なんと無様で惨めなことか。彼らの「生(せい)」に対する執着心は、むしろわれわれが見習わなければならないほどだ。

 

なんせ、あんな小さな生き物のために、ゴキブリ捕獲器だのゴキブリ駆除スプレーだのが開発されており、なにをそんなに恐れているのか片腹痛い。

にもかかわらず勘違いしているニンゲンどもは、こうして遠くからゴキブリを嘲笑っているが、直に彼らと遭遇しようものなら慌てふためき狼狽するわけで、この辺りで事実上の勝負はついている。

 

どれほど偉そうに威張ってても、直接対決ではゴキブリに手も足も出ない。そんな内弁慶の見かけ倒しが、われわれ人間というわけだ。

 

 

こうして、東京の夏は静かに過ぎていくのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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