(・・そうだ!スニーカーの中だ!)
長い昼寝から目覚めたわたしは、シューズボックスへと走った。おっと、見栄をはってしまったが、二、三歩あるいただけで届く距離にあるので、走ったりしたら玄関のドアに激突するだろう。
そしてわたしは、夢で見た通りスニーカーを取り出すと、靴の中へと手を突っ込んだ。ある、きっとここにサングラスが隠してある——!!
だが案の定、わたしの指先は異物に触れることなく、つま先まで届いてしまった。やっぱり、失くしたのか——。
*
そう、あれはラスベガスでの出来事。実銃のハンドガンやライフルを撃つべく、クレー射撃用のスニーカーを持参した。さらにイヤーマフと射撃用のサングラスもあるので、すぐにでも射撃ができる準備が整っている。
「そのサングラスじゃダメだ。跳ね返った金属片で割れる可能性がある」
そう言いながら友人は、自らのサングラスをわたしに手渡した。言わずもがな、わたしのサングラスも跳弾対策はできるが、どこをどう見てもこちらの方が頑丈にみえる。さすがはアメリカ——。
こうしてわたしは、頑丈なサングラスを携えて射撃訓練に臨んだのである。
射撃場へ向かうまでの道中は、お気に入りのオシャレサングラスで紫外線をカット。999.9(フィーナインズ)の白いフレームが光る自慢のサングラスに、つい先日、金色のオシャレメガネチェーンを取り付けたため、サングラスを外してもフリーハンドで維持できる優れもの。
過度に目立たず穏やかな流線形は、洗練されたオシャレの象徴ともいえる。さらに、わたしの目を紫外線から守ってくれる強い味方は、外出における手放せないアイテムなのである。
こうしうて、砂漠地帯における灼熱地獄から帰還したわたしは、明日の帰国に向けて荷物をまとめはじめた。友人に返すもの、自分で持ち帰るもの・・それぞれを分けると、あっという間に綺麗に片付けられた。
(・・あれ、999.9のサングラスどこだ)
たしか射撃場からの帰りに装着していたはずの、お気に入りのサングラスが見当たらない。どこへ入れたかな?
スーツケースを開くと、先ほど詰めたばかりの荷物をひっくり返してサングラスを探した。だがなぜか見つからない。・・おかしいな、間違って荷物に入れてないとしたら、この室内にあるはず。とはいえそんなウロウロしてないから、目につくところにあるはずなんだが。
念のため、トイレやバスルームもチェックするが、999.9の姿はなかった。いったいどこへ消えたんだ——。
射撃場に置いてきたということはない。なぜなら、あんなまっ茶色の砂漠で派手なサングラスを落とせば、さすがに発見できるからだ。しかし車内も駐車場も廊下も室内も、そしてスーツケースにも999.9はいない。ズボンのポケットを探ったり自らの首に触ったりするも、当然ながら指先に触れるものはなにもない。
(・・失くしたのか)
そんなこんなで帰国してから一週間が過ぎた。そして、もう999.9は諦めて新たなサングラスを買おうかと悩んでいたところで、あの夢をみたのだ。
わたしは、射撃後にサンダルへ履き替えたタイミングで、999.9を射撃用スニーカーの中へとしまった。これならばある程度の衝撃から身(サングラス)を守れるし、スニーカーを失くさない限りサングラスもなくならないからだ。
(なんというグッドアイデア、さすがわたし!)
自画自賛するとともに安堵したわたしは、さらに深い眠りへと就いたのである。
*
こうして眠りから覚めたわたしは、寝ぼけまなこでシューズボックスへと駆け寄ったわけだ。ところが夢の暗示は外れてしまい、わたしの999.9は依然として姿を消したまま——。
(あぁ、0.1%の可能性すらも残っていないのか・・)
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