中目黒駅前にある、蔦屋書店に併設されたスタバはいつも混んでいる。建物の一階がほぼすべて蔦屋でできているため、スタバでドリンクを購入したら蔦屋店内で飲むスタイル。
客からすると、ここでコーヒーを飲むだけで「ワンランク上のジブン」になれるため、こぞってスタバへと向かうのだ。
しかし書店で飲むコーヒーというのは、なぜあんなに美味いのだろう。本が放つ独特の匂いが、熱々のコーヒーを誘うとでも言おうか。普段から読書などしない私ですら、たくさんの本に囲まれると気分が良くなるため、まるで充実した人生を送る成功者のような錯覚に陥るのだ。
ちなみに蔦屋との一体型スタバは、中目黒だけでなく代官山や六本木にもある。いずれも書店のいたるところに椅子があり、本を読んだり仕事をしたり、時にはボーっとしながらコーヒーをすする「リア充」であふれている。
そしてリア充が寄ってたかって蔦屋に押し寄せるため、席の一つも空いていないことが多い。ここ最近のような過ごしやすい気候ならば、外の階段に腰かけて時間をつぶせるが、夏や冬などエアコン必須の時期にはその行為は死を意味する。
(それにしても、なんだこの長蛇の列・・・)
蔦屋でコーヒーを飲みつつ、リア充っぷりをインスタにでも投稿しようと思ったが、とんでもない長蛇の列に出くわす。念のため先頭まで確認に行くが、間違いなくスタバの注文の列だった。
(モバイルオーダー、使えばいいのに)
そう、毎日スタバに出没する私は、スタバの店員よりスタバを知っているといっても過言ではない。そして、レジ前であれこれ悩む無駄を省くためにも、モバイルオーダーで事前に注文をしてから店舗に向かうことが多い。
駅近くのスタバならば、電車を降りたタイミングでオーダーすれば、店舗に到着する頃にはしっかりと用意されているため、モバイルオーダーを使わない手はない。
そんなスタバ巧者の私はモバイルオーダーで注文すれば済むが、今は席に座ってくつろぎたい。だがこの混みようでは何時間待っても空きそうにない。
そこではす向かいにあるスープストックトーキョーで、コーヒーブレイクならぬスープブレイクをすることにした。
しかし店内に足を踏み入れた瞬間、私は突如エスパーになった。なんと、この店舗の数年後が見えてしまったのだ。
(ここのスタッフは近い将来、全員消えるであろう)
昨年7月にリニューアルオープンした中目黒店は、開放的で清潔感のあるシャレた店に様変わりしていた。それに伴い、あらゆる仕組みがシステム化されていた。
たとえば、ウーバーイーツ専用の受け取りボックスの設置や、食べ終わった後の食器を顧客自らが分別するエリアなど、至れり尽くせりのサービスというより、顧客や配達員自らが積極的にスタッフの負担を減らすよう関与させられる。
そして中でも目を引くのは、注文の品が出来上がるとデジタルサイネージにより、番号表示がされることだ。大型のディスプレイを見上げながら思わず漏れた感想は、
「病院の会計待ちみたい」
だった。レジで商品を注文すると「準備中」に番号が表示され、出来上がると「呼び出し」に番号が移る。まさに会計待ちのアレと同じである。
さらに驚いたのは、中目黒店限定で「事前決済サービス」を導入していることだ。専用ページで「店内飲食」か「テイクアウト」の選択と時間を指定し、続いて商品を選び、最後にオンライン決済で終了。あとは指定した時間に店舗を訪れれば、スタバのモバイルオーダー同様に完成した商品がお出迎えしてくれるのだ。
(ということは、調理の部分さえどうにかなれば、もはや人間スタッフは要らないのでは・・・)
食器の片付けも顧客が細かく分別するため、商品提供の段階が自動化できれば人間など不要。よって、マンションの管理人のような人材を配置しておけば事足りるはず。いや、それすらもAIで対応できてしまうかもしれない――。
「無駄な待ち時間が嫌い!」などと生意気なことを言っていると、いずれAIから「オマエの存在が無駄だ!」と言われかねない。
そんな近い将来起こり得る恐怖を、薄っすらと感じた中目黒であった。
サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)
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