部屋とホコリとピアス

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わたしは徹夜で「あること」をした。したくてしたわけではないが、気づくと朝を迎えていたため、結果的には徹夜でやったことになった、というだけだが。

その「あること」とは部屋の掃除だ。なんと今日、我が家に客人が訪れるため、とにかくキレイにする必要があった。思い返せば、転居してから初の大掃除を敢行したのだ。

 

我が家は狭いが、これが自宅の「一部屋」だと思えばかなり広い。ポジティブに考え抜くのが取り柄ゆえ、「わたしの部屋は広い」と思い込ませることで、優越感に浸りながら毎日を過ごしている。

そんな「広い部屋」の大掃除は、さほど難しくはなかった。とりあえず目につく邪魔な物は、バスタブにでも放り込んでおけばいい。たとえばクリーニングに出そう出そうと思いながらも、すでに一か月が過ぎてしまった冬物のジャケットやフリースが山積みになっているのだが、それらを丸めてゴミ袋に突っ込み、風呂場へ移動させた。

(おぉ、かなりスッキリした)

続いて、さほど目立たない割にはそっと触れた瞬間に存在感を出してくる「ホコリ」の排除。これまではコロコロを駆使してホコリを片付けてきたが、今回の客人は室内をウロウロする可能性があるため、表面上の除去だけでは足りない。

 

そう、なにを隠そう本日の来訪者は調律師である友人なのだ。ピアノの調律とサイレンサーのチェックのために我が家を訪れるわけだが、近しい存在ゆえに掃除の手抜きもできない。

もう二度と会わない関係性ならば、荷物だらけだろうがホコリだらけだろうがゴミだらけだろうが知ったこっちゃない。だが明日も会う可能性があるとなると、これはやはり最大限にキレイにしておかなければ、悪評につながる恐れがある。できれば陰でコッソリと、

「URABEの部屋は整理整頓されていてピカピカだった」

なんて噂を流してもらえたら御の字である。「なんだ、あいつは見た目によらずきちんとしているのか」ということで、男子から人気が出るかもしれない。

 

そんな妄想を抱きながら、コンビニで大量にもらってきた「おてふき」を使ってフローリングをこする。

乾燥した布や紙でホコリをとると、ホコリ同士がくっついて大きな塊となり、さらにその塊でホコリを吸い寄せることができる。だがホコリの下に汚れがあった場合、乾いた布やホコリの塊では対処できない。

そこで、最初から濡れた素材でホコリを絡めとり、汚れも拭い去ることで、一石二鳥という作戦をとったのだ。

 

しかしここで問題が発生した。床に落ちているコンセント類にホコリが付着していたため、おてふきでキュッキュと磨いたところ、静電気も相まって、逆に濡れたホコリを擦り込む形となり、コンセント類が濡れたホコリまみれになったのだ。

(しまった!拭く前よりも汚れてる)

あわててTシャツの裾で拭き取ると、ものの見事に濡れたホコリは消え去った。

(なるほど、乾いた布で二度拭きするといいのか)

人間とは日々成長するものなのだと、改めて実感したのである。

 

ホコリ、ホコリとホコリばかりを追いかけていると、どんどんミクロの方向へと導かれていく。そしてとうとうわたしは、ソファの縫い目のくぼみに溜まったホコリを発見し、それを人さし指で掻き出してはコロコロにくっ付ける、という非常に地味で大した成果を得られない作業を始めた。

そんなこんなでミクロのホコリ取りも終盤に差しかかった頃、ソファに脱ぎ捨ててあるパーカーの存在に気づく。

(ちゃんと畳んで隠さなければ)

パーカーを持ち上げた途端、カチャンと音がして何かが落ちた。見るとそれはお気に入りのピアス。ところがなぜか片方しか落ちていない。パーカーのポケットを探るも空っぽ。ベッドやソファの下に滑り込んだのかと、床に這いつくばって覗いてみるが、それらしきものは見えない。

完全に嫌な予感しかしない。このパーカーを最後に着た日、柔術の練習か何かでピアスを外し、ポケットに入れたまま帰宅したのだろう。そして帰宅後初めてポケットを探ったのが今であり、もう片方のピアスの行方は分からない。というか、この部屋になければもう見つかることはないだろう――。

 

知人のハンドメイドであるこのピアスは、同じものなど存在しない、たった一つの大切なアクセサリー。しかもピアスというのは耳たぶにぶら下げる飾り物ゆえ、対になってこそ意味を成す。

諦めがつかないわたしは、一心不乱に部屋中を探し回った。その結果、気づくと朝を迎えていたのだ。

 

そうこうするうちに待ち合わせ時間が刻々と迫る。とりあえず手を洗おうと、キッチンの水道へ手を伸ばす。

(ハッ!水垢が目立つじゃないか)

シンクにこびりついたウロコ模様の水垢が、朝の光を浴びて無駄に目立つ。あぁ、これで遅刻確定だ。

 

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