改めて告げよう。わたしは火が怖い。
そして今日、友人らから指摘された「ヒトではないポイント」というものの一つが、この「火が怖い」という部分だった。しかも3人が同時に同じことを思ったわけで、なかなか信憑性がある。
「人間は火を得ることで進化してきたというのに、その火が怖いだなんて…」
そう言われてみればたしかにその通りだ。火を使う動物は、人間しかいない。
今からおよそ150万年前、ヒトは「火」を知った。そのきっかけは火山や落雷などの自然現象による発火だったらしいが、焼死した動物の肉を食べたことで「火を使う」という、新たな調理方法を知るきっかけとなったのだそう。また火によって暗闇を照らしたり、寒い時期に暖をとったりと、ヒトの生活を豊かにする重要なファクターとなる。
さらに時代が進み、およそ50万年前の北京原人の遺跡からは「炉」の跡が発見されている。この辺りから自らの手で火をおこす方法を発見し、生活に取り入れるようになったようだ。
そして着目すべきは、今では使われていない「火の使い方」だ。原始時代では、火は野生動物から身を守るための道具として使われていた。つまり動物は火が怖いのだ。もちろん人間だって火は怖い。だが適切な使用方法をもってすれば、怖いことなどない。
かつて競走馬の厩舎が全焼し、22頭のサラブレッドが焼死する悲惨な事件があった。2000年2月、宮城県にあるトレーニングセンターで火災が発生し、厩舎一棟が丸ごと炎に包まれた。当時、重賞2勝(マイラーズカップ、阪神牝馬特別)の成績とチャーミングな馬名から、多くのファンに愛された「エガオヲミセテ」が、猛火から逃げることができずにこの世を去った。
体重400キロ以上の競走馬を、ヒトが無理矢理移動させることは非常に難しい。目の前で燃え盛る炎におびえ、立ちすくんでしまった馬たちを、関係者は助け出すことができなかったのだ。想像するだけでも胸が痛む。
このように、動物は本能的に火を恐れる。そしてわたしも火を恐れるがゆえに料理すらできない。ガスコンロからそびえ立つ青き炎は、まるで業火(ごうか)のごとくメラメラと不気味なオーラを放つ。油断すればわたしまでもが焼かれ苦しむこととなる。
「IHにすればいいんじゃないですか?」
フン、馬鹿め。そんなことは家主に言え。あと、そこまでしてまで料理をしたいとも思わないのだ。自然のものを自然に食べれば、それで十分。
「そういえば変な音も聞こえるし、超音波にも引っかかるし、ニオイにも敏感で、おまけに火が怖いんだから野生動物と同じじゃん!」
たしかにそれはある。半年ほど前の深夜24時、決まって「嫌な感じの低周波音」が聞こえた。重厚でとてつもなく大きな物体が、軋みながらゆっくりと移動しているような不穏な音。それが毎晩聞こえるのだから発狂しそうになる。
ネット検索で「港区 低周波音」とか「港区 深夜 不快な低音」などと調べるも、ヒットはゼロ。
この話を近所の友人に伝え、時間になったらその音を聞くように指示した。だが、彼女にその音は聞こえなかった。
いわゆる「音」というよりは「振動」に近い響きなので、耳ではなく脳へ直接働きかけてくる感覚。それが30分間ずっと続くのだから、逃げ場もなければ対処のしようもない。窓を閉めても耳を塞いでも、その低周波音は伝わってくるーー。
ところが今はもう聞こえない。いつの間にかその音は消えていた。
こういう特殊な体験が多いため、周囲からは「ヒトではない」と思われるのかもしれない。加えて、トレーニングなしでも筋肉質なゴリラのようなガタイに、野菜や果物は皮ごと食べる習性があり、さらに怪我の治りが異常に早いことなどからも、人間というよりは動物に近いといっても過言ではない。
というわけでわたしは今日、ヒトとしての進化を遂げた。なんと、電子レンジの機能にある「オーブン」というスイッチを、生まれて初めて押したのだ。
オーブンと聞くと「ケーキや七面鳥を焼くための道具」というイメージが強く、料理ができないわたしはそれを嫌厭してきた。しかし今日はあえてその文明の利器を使うことで、ヒトとしてのさらなる進化を遂げたのだ。
焼かれたるはサツマイモの王様、安納芋。じっくり焼き上げることで糖度が上がり、トロっと甘い蜜が出る。そして料理成功の秘訣として「じっくり焼くにはオーブンが最適」と、イモの袋の裏側に書いてある。
そこでわたしは安納芋6個をレンジの回転網に並べ、180度で60分というボタンを選択した。あとは時間が経つのを待つだけーー。
普段サツマイモを調理する際は、ビショビショに濡らしたキッチンペーパーでイモを巻き、コンビニのビニール袋に入れてレンチンするのがワタシ流。
だが今回初めて使ったオーブンという機能、これは実に驚愕の調理方法だった。・・・なぜなら、ちゃんとした「焼き芋」が出来上がるからだ。
改めて宣言しよう。サツマイモは焼くに限る。
サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)
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