種類の異なる好物が合体すると、ほぼうまくいかない。たとえば私の大好物であるチーズケーキと豚しゃぶを、ドッキングさせたらどうなるだろうか。ずっしりと重厚なベイクドチーズケーキを、ほんのりピンク色の豚バラ肉で巻いて、ポン酢をちょっとつけたら――。
美味いわけがない。このように、好みの食べ物同士をドッキングさせたとて、なかなかうまい具合に「最高の食べ物」は出来上がらない。
だが今日、これはまさに好物同士の最高のコラボともいえる食べ物に直面した。――季節は真冬。都会の寒空の下で食欲をそそるは、ほやほやの湯気が眩しい「肉まん」だった。
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肉まんというものが美味しそうに見える一つの理由として、宣伝方法が巧みであることが挙げられる。コンビニの肉まんはそうではないが、本格中華料理屋の店先では、竹でできた大きな蒸篭(せいろ)から白い湯気をモクモクと上げ、その中で眠る大きな肉まんの食品サンプルが陳列されている。
小籠包も同じだが、蒸篭のフタを開けた瞬間に漏れ出る大量の湯気は、派手な演歌歌手がステージに登場する際に焚かれるスモークと同じ役割を果たす。フタを持ち上げると同時に顔面を覆う柔らかな湯気と、肉まんや小籠包のジューシーな香りが鼻の奥まで流れ込んでくれば、それはもう「美味」という要素しかない。
だが所詮そこまでの食べ物であり、特筆すべき箇所はないと思っていた。少なくとも今日までは――。
ふと顔をあげると道の向こう側に中華料理屋があり、店頭で肉まんが売られていた。過去に何度か通過したことのある店だが、その時は季節的な理由もあり肉まんを食べる気分ではなかった。だが今は冬、そして夜8時ともなれば誰もが寒さで縮こまる時間帯。そこへきてあの肉まんは、無視して通り過ぎるには相当なメンタルを要するであろう、圧倒的なオーラを放っている。
私は道を横切ると肉まんのショーケースの前に立つ。
「大肉まん」
単なる肉まんではない、大肉まんだ。見るからにどデカいこの肉まんは、両手が必要となるほどのわがままボディで、見るからにフカフカのもち肌美人である。
食べ物というのは不思議なもので、「デカい」という要素が加わるだけでなぜか満足できる。そして満足した状態で食べ始めるので、そもそもすべてが美味く感じるのだ。この大肉まんも例外ではない。このデカさは食欲をそそるし、作り手である料理人はさっきから忙しそうに厨房を駆け回っている。その額には光る汗と肉まんへの熱意のようなものが溢れ出ている。
私は躊躇なく入り口のドアを開けると、店員の「いらっしゃいませ」を待たずにこう叫んだ。
「大肉まん二つ!」
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私はパンやパンケーキが好きだ。さらには肉も大好きだ。そして今、目の前にそびえる大肉まんを手で割ったところ、この二つの好物が同時に現れたのだ。
大肉まんの皮は分厚いパンのよう。ふっくらとしたモチモチのパンは、それだけをちぎって食べても大満足の歯ごたえと風味を醸し出す。そして中央に鎮座する肉の塊は、まるで手作りハンバーグのよう。具材の刻み方から肉の丸め方まで、これ単体で出されても大喜びで飛びつくであろう肉料理といえる。
この大肉まん、例えるならば4枚切りの厚切り食パンに大型ハンバーグを挟んで、端っこをぎゅっと閉じた感じ。これが美味くないわけがない。むしろ美味くなければ詐欺だろう。
先日、アンコの代わりにクリームが入ったたい焼きを食べた。だが残念なことに尻尾までクリームが入っており、肝心の皮が薄かった。
「なに言ってんの?たい焼きは中身が多いほうがいいじゃん!」
そう考える愚か者もいるだろう。だが私は、皮を食べたいのだ。いや、皮だけを楽しみにしているというのが本音。それなのに頭のてっぺんから尻尾の先まで、余すところなくクリームが占領しているからたまったもんじゃない。おまけにカリッカリに焼いてあるため、ふっくらどころか失敗作の硬いパンケーキを食べているかのよう。
それに比べてどうだ、この大肉まんのふっくら感といったらこの上ない。皮の入り口を噛みちぎったくらいでは、中身の肉塊などまったく姿を見せないほどの厚みがある。中央部分で比較すると皮3に対して肉1の割合で整っている。
ましてや大型ハンバーグに厚切り食パンのボリューム。このような肉まん史上最高となる黄金比率に、出会ったことなどあるはずもない!
あっという間に一つ目の大肉まんを平らげると、さっさと二つ目に手を伸ばす。
(さっきは真ん中から割って食べたので、今度は丸ごとかぶりついてやろう)
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こうして私は、大好物二つが合体した理想的な食べ物と出会うことができた。
今日は朝から予定が狂い、昨日は逆流性食道炎に見舞われ、先週から咳喘息に悩まされる私は、いいことなど何もない最近を過ごしてきた。だが今日、これらの出来事が帳消しとなるような出会いを果たすことができたのだ。人間、生きていればいいことがある。嘘ではない。
嘘だと思う奴は、ガタガタ震えながら鼻水を垂らしつつ、立派なフォルムの大肉まんを頬張れば納得するだろう。
サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)
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