わが家の唯一の調理器具である電子レンジにて唯一の調理を行ったわたしは、あまりの美味さに作ったものをすべて食べ尽くしてしまった。
なぜわざわざ自炊をしたのかというと、ここ最近の暴飲暴食が祟り腹の肉がスパッツの上に乗っかるようになったため、少しダイエットをしようと思ったからだ。にもかかわらず、全部食べてしまったのでは意味がない・・というか、むしろ増量に加担しただけではないか。なんせ、こぶしサイズのジャガイモを12個も食べてしまったのだから——。
自炊の内容は、ジャガイモ12個、焼き芋6本、スナップエンドウ1パック、ニンジン4本、柿2個、リンゴ2個。スーパーで食材を物色したところ、これらのラインナップが目に飛び込んできたため、とりあえずすべて購入してみたわけだが、当然ながらこれらを何日・・あるいは何回かに分けて食べるつもりだった。
「それって、ゾウのエサじゃん・・」
わたしならばカピバラのエサ・・と言うであろうところを「ゾウ」とは、これまた意外なところを友人は突いてきた。だが確かに、一度で食べることを思えばゾウをイメージするのが妥当なくらい、まぁまぁの量ではある。
そして繰り返しになるが、わたしはこれらを一度で食べるつもりはなかった。具体的に何回で・・という想定はしていないが、それでもダイエットのためにわざわざ野菜と果物をチョイスしたのだから、ちょぼちょぼ小分けにして食べるつもりだったのは間違いないわけで——。
帰宅してすぐにジャガイモを洗って耐熱ボウルに放り込むと、レンジで15分加熱してみた。加熱時間は適当だが、出来上がったジャガイモはちょうどいい具合いのホクホク感で、わたしには料理の才能があるのではなかろうか・・と、自画自賛するほどの出来栄え。
続いてスナップエンドウを丼に放り込むと、とりあえず3分加熱してみた。しかしまだ青臭さが残っていたため追加で1分半加熱してみたところ、今度は完璧な状態のスナップエンドウが誕生した。
そしてニンジンと焼き芋、さらにデザートのリンゴと柿は手を加える必要がないので、調理した品々と合わせてそれらをテーブルに並べると、なんとも煌びやかなディナーの完成となった。
(・・・ヤバイ、わたしは料理の天才かもしれない)
食欲をそそる琥珀色のジャガイモ×12個に、みずみずしいグリーンが映える山盛りのスナップエンドウ。調和を保つかのように横たわる6本の焼き芋に、ビタミンカラーのニンジン×4本。そして、橙色が元気を与えてくれる柿×2個とビビッドな赤と緑が眩しいリンゴたち——こんなにもカラフルかつ豪華なディナーがあるだろうか!
しかも刃物を一切使わずに、採れたての食材をそのままの姿で味わうという、エコかつ贅沢な手法によるわたしの料理は、美味いだけでなく時短というテクニックも駆使している。
無論、調味料は使用していないので、芋や豆、根菜が持つ”素材の味”を堪能することができる。いわゆる塩だのマヨネーズだの、余計な味付けは不要。加熱により生み出された、自然の甘みや旨味そして食感のみで十分勝負できる食材ばかりだからだ。
なによりもこの彩の美しさよ!やはり、食事というのは目で見ることから始まっているのだ。その証拠にレストランでは、食器や盛り付けにも十分な配慮を施すわけで、テーブルに並べられた時点で料理はスタートする。
とはいえ、わたしの料理は小細工なしの真っ向勝負であり、皿への配慮も盛り付けへの気配りも必要ない。その分、素材をダイレクトにゴロゴロ並べるという荒技が、料理の臨場感を引き立てているわけだ。
唯一の気遣いといえば、テーブルに敷き詰められたチラシだろうか。ポスティングされた不要なビラやフライヤーを、どうせ捨てるならテーブルクロス代わりに使ってやろう——という、なんとも粋な計らいが功を奏して料理に花を添える形となった。
(無計画かつ適当に進めたにもかかわらず、ここまで完璧なディナーが出来上がってしまうとは、もしや天才シェフの片鱗が見え隠れするのでは・・)
そんな妄想を抱きながら、気付くと料理はすべて胃袋へと収まっていた。——正確には、手が止まらなかったのだ。無理やり食べたわけでもないし、できれば翌日の分として残しておきたい気持ちはあった。だが気が付けば、テーブルの上にはチラシと空の耐熱ボウルしか残っていなかったのだ。
*
美味かったからすべて食べ尽くしてしまったわけだが、それにしてもわたしには草食動物の血が流れているのかもしれない・・と、思わずにはいられないディナーであった。
そしてダイエットのほうは、この調子でいくと実現するのは至難の業なのかもしれない・・と、思わずにはいられないディナーでもあった。
コメントを残す