多分、もっといい巻き方——というか理にかなった巻き方があるはずだが、そういったことを調べるのがとにかく苦手なわたしは、今の自分にできるベストの巻き方で挑んでいる。なんの巻き方かというと・・テーピングだ。
厳密には、一般的なテーピングではなく"フィンガーテープ"と呼ばれる5ミリ程度の細いテーピングで、ハンドボールやボルダリングの際に巻くらしい。「らしい」というのは、わたしはそれらの競技をしているわけではなく、ブラジリアン柔術の際に巻いているので、それ以外の使い方を知らないのだ。
しかし、"フィンガーテープ"で検索するとハンドボールが上位にくるので、指の保護のためにもハンドボーラーたちは巻いているのだろう。そんなフィンガーテープだが、一般的なテーピングが「固定」を目的にしているのに対して、こちらは固定は固定だが、屈曲を維持した状態での固定・・という感じ。
フィンガーテープを巻いておくと、指の怪我を防ぐことができる。また、軽く曲げた状態で巻くと握力のサポートにもなるため、柔術競技者にとっての必需品なのだ。
とはいえ、わたしはピアノを練習している身なので、絶対的に指を守る義務がある。むしろ、遊びでも本気でもピアノを弾く者が柔術を嗜むというのは、ハッキリ言って間違っている。最も大切にしなければならない、かけがえのない大切なアイテムが指であるにもかかわらず、それらを酷使して場合によっては怪我をさせてしまうなど、あってはならない愚行だからだ。
おかげでわたしの指は、ピアノ弾きとしてはまったく使い物にならないレベルにまで落ちぶれてしまった。なかでも群を抜いて酷いのは小指だ。柔術には「スパイダーガード」と呼ばれる強力なガードの形があり、それを行うには両手の小指・薬指・中指を犠牲にしなければならない。それでも、相手の道衣の袖に指を引っ掛けてぶら下がり、さらに肘の内側を足の裏で蹴るだけで完成するスパイダーガードは、柔術ならではの技であり多くの者が愛用しているわけだ。
そして、スパイダーガードのみならず道衣の裾や襟を掴むことで、一番痛めやすいのが小指である。見るからに細くて心もとない小指——ちょっと引っかかっただけでも骨折したり捻挫したりと、まるで赤ん坊のようなヤワさである。
というわけで、脆い小指を支えるべく隣人の薬指を副木として、2本一緒にグルグル巻きにすることで補強を施しているわけだが、つい先日、今度は右手の人差し指を痛めてしまったわたし。さすがに人差し指はノーマークだったため、無防備な状態でバッティングしたことが負傷の原因だが、やってしまったものは仕方がないので、しばらくは大人しく過ごすことにした。
その後、内出血が引いて腫れもおさまってきたところで、フィンガーテープを巻いて練習に臨んだところ、開始5分でフィンガーテープの巻き方が間違っていることに気がついた。
(・・全部すっぽ抜けたじゃねーか)
そう、あまり強く巻くと患部が痛むので、そっと貼り付ける程度の強さでグルグル巻きにしたのだが、当然ながらそんなゆるゆるのテーピングでは、すっぽ抜けるのも時間の問題。結果的に、フィンガーテープ数十センチを無駄に巻いたあげく、たったの5分でゴミ箱へとスルーパスしたのだ。
(激しい動きでもすっぽ抜けないためには、第一関節と第二関節の手前でタイトに巻くことだ)
物理的に外れない位置で巻いておけば、それはどうやったって取れないはず。かといって、きつくギュウギュウ巻きにすればいいってもんじゃない。適度なタイトさで、かつ、何重にも分厚く巻くことで、患部の固定と同時に外部からの衝撃を緩和する効果も得られるはず——。
このイメージでフィンガーテープを巻き終えたわたしは、ふと思った。
(・・・なんか、人差し指の様子がおかしい)
——そりゃそうだ。ギュウギュウ巻きにしなくても、グルグル巻きにすれば自ずと圧力がかかりうっ血するに決まっている。でも、まぁわたしらしいといえばらしいな。
血行不良を起こしたことで、まるでかりんとうのようにどす黒く暗紫に変色した人差し指は、なんとなく哀れに思えた。元はと言えば"人差し指を守るためのテーピング"のはずなのに、頑丈に巻き過ぎたことで血流を阻害した結果、見た目が元の怪我よりも酷い状態になってしまったのだから。
*
こうして、どれがベターな巻き方なのか分からぬまま、わたしは暗紫色のかりんとうを生産し続けるのであった。
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