あぁ、新型コロナの大盤振る舞いのツケが回ってきた——と、感じざるを得ない出来事があった。それは、とある顧問先からこんな相談を受けたことだった。
「2年前に社内でコロナに感染して、労災認定されたスタッフがいますが、主治医から治療の打ち切りを言い渡されたそうです」
当時、大勢の人間と接触せざるを得ない業種——具体的には、飲食業や医療看護系の仕事に就く人々に対して、感染ルートが明らかではないが職場で新型コロナに感染した可能性がある場合、それらをすべて労災として認定した。まぁ、得体の知れぬウイルス・・ということで、迅速な対応を迫られる政府としては「職場感染は労災でいいだろう」と、治療費を国が負担する形にしたのは理解できる。
しかしその後、新型コロナの罹患後症状(後遺症)である「疲労感・倦怠感」「記憶障害」「集中力低下」「嗅覚・味覚障害」などについては、対症療法で経過観察するしかなく、時間経過とともに改善されればいいが、これらの症状が残存する患者もいるわけで、そうなると「いつまで治療を続けるのか問題」が勃発するわけだ。
そして、医師が「治癒あるいは症状固定」と判断した場合、治療はそこで打ち切られる。無論、別の医療機関で別の治療を受けることはできるが、二年の治療を経て残存した症状——倦怠感や味覚障害など——は、罹患した本人にとっては「前と違う!」とナーバスになってしまうが、ある程度は現実として受け入れる必要があるのでは・・と、個人的には思うのである。
しかも、新型コロナに限らず業務上の疾病や怪我ならば治療費が無料となるため、被災労働者は安心して治療を続けることができる・・というのが、労災保険という制度だ。そのため、「被災前の状態に戻るまで治療を続けられる」と思うのも無理はない。
おまけに、症状固定後に障害等級に該当するレベルの障害が残った場合は、労災保険や国民・厚生年金から給付が支給されたり(国年・厚年に付いては納付要件あり)、行政から障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の交付が受けられたりと、日常生活に著しい制限を受ける場合の支援制度が用意されている。
ところが、障害等級に該当しない場合の「治癒(症状固定)」に対しては、その後の補償はないため、労災ならば会社に費用請求することとなる。なんせ"業務上罹患した疾病"ということなっているので——。
とはいえ、被災労働者本人も「治癒後に自分の意思で治療を続けるにあたり、会社に費用請求するのはちょっと・・」と感じるかもしれない。殊に新型コロナの感染については、感染経路を特定することが困難であり、臨時的な措置として労災で対応してきた経緯からも、会社が費用請求に応じなければならない・・というのはちょっとかわいそうな気もする。
ましてや、感覚的な罹患後症状であれば、その後何年治療を続けたとしても元に戻る確証はない。しかも、今までは治療費が無料だったからこそ継続して受診していたわけで、これが自費となればどうだろうか——。
新型コロナの罹患が業務外だった場合、多少の倦怠感や味覚障害が残存するも、二年の治療を経て「症状固定」を言い渡されたとき、転院してでも治療を続ける人はどのくらいいるのだろうか。わたしの周りでそれらの症状を訴える人は、食生活やサプリメントで改善を図っているが、およそ本人も「これ以上通院しても、劇的な改善は見込めない」と感じているからだろう。
どんな理由であれ、割れた皿は元通りには戻らない。無論、元通りになれば最高の結果だが、何をもって「元通り」とするかは難しい判断となる。よって、厳しい言い方にはなるが、どこかで妥協あるいは現実を受け入れる「勇気」が必要なのでは・・と思うのだ。
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新型コロナの罹患後症状が、まさかここまで長引くものだとは政府も予想だにしなかったのだろう。だが、労災保険を大盤振る舞いしたのも事実なわけで、数年後のいま起こりつつある現実について、改めて見直す時期がきたのではなかろうか。
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