(これが夢ならば、今すぐ目覚めたい・・)
ただでさえ飛び出ている目玉がさらに飛び出しそうになるほどの驚きと絶望とともに、のぞき込んでいた紙箱から顔を上げたわたしは、ソファにもたれかかり項垂れた。
これほどのショックは、久々である——。
その紙箱には、揚げサンド(フライド・サンドイッチ)が3個入っていた。原宿にあるAge.3(アゲサン)にて、押しも押されぬ大好物の”生チョコ抹茶”とシンプルで魅力的な”ホイップ”、そして「この組み合わせは反則だろう!」というほど好相性の”はちみつレアチーズ”の3種類を購入したわたしは、帰宅すると同時に目を輝かせながら箱を開けたのだ。
まずは大好物の抹茶から——ん?目がおかしくなったのか?
胸躍らせ抹茶との対面に挑んだわたしは、あの美しい深緑色を見つけることができなかった。箱の中には、白(ホイップ)白(レアチーズ)茶色(抹茶・・・?)の三色がこちらを見上げているが、抹茶って緑色じゃなかったけ・・?
気のせいかもしれないので、いったん箱のフタを閉じてから改めて開封してみたところ——うん、やっぱりあれは茶色だ。正確には「焦げ茶色」というべきだろうか、要するにチョコレートの色をしているではないか。
その瞬間、店に入ってから揚げサンドの箱を受け取るまでの出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡った。わたしは確実に「抹茶」と告げた。しかも、抹茶のイラストを指さしながら注文した。それなのになぜこんなミスを——。
念のため、一緒に店舗を訪れた友人へこの事件についてメッセージを送ってみたところ、
「え? 抹茶を注文してたよ」
と、当然の返事があった——そう、このわたしが・・抹茶界の王たるわたしが抹茶を注文しないわけがないのだ。
店のメニューに抹茶があるにもかかわらず、それを頼まない理由があるとすれば、それは「抹茶とあんこが密着していて分離不可能な場合」のみ。
抹茶王たるわたしは、メニュー上は抹茶とあんこが合体していてる商品でも、物理的に分離が可能であれば「この商品をあんこ抜きで持ってきて」という特別なオーダーが通る仕組みとなっており、いついかなる時でも抹茶を優先し、どんな困難も乗り越えて抹茶を手に入れている。
そんなわたしが、抹茶を注文しないわけがないのである。
すると友人が、じつに鋭い発言をした。
「そういえば抹茶とチョコって、メニュー表の隣同士にあったもんね」
それを聞いたわたしは、Age.3原宿店のウエブサイトにてメニュー表を確認してみた。すると、なんと「生チョコ抹茶」の隣に「生チョコチョコ」という茶色い生クリームの画像が掲載されているではないか!!
(・・いや、とはいえわたしは「抹茶」と確実に口にしたし、画像だってこの緑色を指さした。どう間違っても両隣りのボンクラを指さす・・などという失態は、わたしに限ってあり得ない。なんせ、抹茶王なのだから)
まぎらわしいので、商品名の頭に「生チョコ」などという言葉をつけないでもらいたいが、もはやそんなことはどうでもいい。抹茶の揚げサンドを食べることだけを楽しみに生きてきたここまでの時間を、返してくれないか——。
とりあえずホイップとレアチーズサンドを満喫したところで、どうしてもチョコレートに手が出ないわたしは、ふとジャケットの右ポケットが膨らんでいることに気が付いた——なんだろ、何を入れたんだっけ?
(・・ま、抹茶だ!!!)
なんとそこには、友人からもらった抹茶のスコーンが入っていたのだ。そういえばさっき、「お取り寄せしたスコーンの中に抹茶があったから」と、抹茶スコーンの説明をしてくれた彼女の顔を思い出す。
それにしても、こんな偶然たる奇跡があるだろうか・・いや、これは奇跡なんかじゃない、ギリギリのろころで抹茶王のチカラを発揮したのだ。揚げサンドとしての抹茶は入手できなかったが、友人からのまさかのアシストにより帳尻合わせが実現する・・という、王の秘めたる能力が発動されたのである!
*
こうして、チョコレートの揚げサンドを冷凍庫へ放り込むと、いそいそと抹茶スコーンに齧りつく王(わたし)なのであった。





















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