欧米人にとって、日本人も韓国人も中国人もみんな同じ顔に見えるかのように、普段から見慣れない・・もしくは興味のないものに対しては、違いが見分けられないのかもしれない——ということは十分理解しているが、とはいえこの勘違いは許せない。
なんのことかというと、アメリカ人にカピバラの話をしたところ、「カピバラ!?知ってるよ」と言いながら、バカンスでメキシコへ行った際に撮影した、”カピバラの動画”とやらを見せてきたのだ。
ここぞとばかりに、カピバラ評論家として蘊蓄(うんちく)を垂れてやろうと思ったわたしは、ゆっくりと椅子から立ち上がると友人のほうへと近づいていった。
「Wow! It’s a capybara!!」
他のアメリカ人たちも、その動画を見ながら大喜びでカピバラを指さして笑っている——さすがはカピバラ、世界的な人気者であることを証明しているじゃないか。
各々が一つのスマホを覗き込みながら、「カピバラは面白い顔をしている」だの「カピバラは動きが遅い」だの、誉めているのかけなしているのか分からないコメントが飛び交う中、満を持してわたしが到着した。
そして「どれどれ・・」とメキシコのカピバラに視線を落としたところ——そこには、カピバラそっくりな”カピバラではない何者か”が写っていたのだ。
(・・・・な、なんだこいつは!?)
一番最初に目が行ったのは「耳」だった。カピバラの耳はキクラゲのような色と形状をしており、水中へ潜る際ピタッと頭に押しつけることで、耳の中へ水が入るのを防いでいる。このような”機能上の構造”からも、耳は小ぶりでクシャっとなっているのだ。
ところが、動画の中で飛び回るそいつには、丸くてかわいらしい耳がついており、とてもじゃないがカピバラとはいえない。しかも、楽しそうにピョンピョン飛び回るその足は、長さもある上に関節がハッキリと存在しており、短さがウリであるカピバラとは似ても似つかない。
——ではいったい、なんなんだ?
少なくとも、ヌートリアではないのは確か。あの、ネズミの血筋が濃すぎる容姿・・とくに尻尾とヒゲの長さにはイラっとするが、そういった嫌悪感を抱く特徴は見られない。
とはいえ、茶色の体毛で尻尾がない点はカピバラと同じだが、なんというか「いい子ちゃん」ぶっている表情が解せないのだ。さらに、まるでカピバラのように飼い猫と戯れる姿は——だから、誰なんだよオマエは?!
広い庭のような場所で、ネコ二匹と追いかけっこをしている”カピバラもどき”は、ネコとネズミという本来ならば敵対すべき関係性を、別の意味で強調するかのようなじゃれ合いを見せている。
実際に某カピネコカフェでは、世界最大のネズミであるカピバラと捕食者たるネコ数匹が、仲睦まじく共同生活を送っている。だが、それはカピバラだから許される行為なのだ。言い換えれば、カピバラ以外のげっ歯類がネコと共存するなど、あってはならないことなのである。
(だからこそ・・・誰なわけ?)
画面の向こうで楽しそうに飛び回る”カピバラもどき”を睨みつけながら、本物のカピバラを知らないアメリカ人たちに「これはカピバラではない」と説明をするわたし。
中には、「そうだよね、カピバラってもっと四角い箱みたいな形をしていた気がする」と、比較的正しい描写を口にする者もいたが、大方は「そんなこと、どうでもいい!」といった雰囲気で、カピバラに似た生き物がカピバラではないことに大爆笑していた。
カピバラ、キャピバラ、カキバラ、キャキバラ・・・なんだろう、この発音の感じが面白いのだろうか。カピバラを色んな発音で連呼しながら、楽しそうに過ごすアメリカ人たちを見ながら、「とはいえ今日、わたしはアメリカでカピバラの布教活動を行った」という事実に満足するのであった。
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要するに、カピバラという生き物は見た目や動きが面白いだけでなく、名前の響きも面白いところが・・・面白いのである。
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