薄明——トワイライト

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わたしは恐るべき事実に震えた。それは、ハツラツとした夏はすでに終わりを告げ、今われわれが感じているこの暑さは残暑、すなわち秋の始まりなのだ・・という、否定しがたい現実に。

 

 

(よし、2時間寝よう)

翌朝、早い時間から予定がある際には、完全に仕事を終わらせてから寝る・・ではなく、先に仮眠をとって早朝に起きて済ませる・・という手法に切り替えたわたし。

たとえば、午前9時に待ち合わせをしている場合、遅くとも8時には出かける準備に入らなければならない。となると、仕事を済ませるには5時に起床しなければ間に合わないため、逆算すると深夜3時にはベッドに入る必要がある。

(いや待てよ。結局この時しか寝ていないのだから、仮眠ではなく睡眠なのでは・・)

 

というのも、わたしが望まずとも比較的早い時間帯から活動を余儀なくされる生活を強いられるようになり、必然的に朝起きなければならない・・つまり、夜寝なければならないライフスタイルとなったことがきっかけ。

それまでは、仕事の区切りがつくまで延々と作業を続け、就寝は朝の7時か8時というふざけた生活リズムで過ごしてきたため、なんとなく夜中のほうが作業が捗る感覚になっていた。

だが、これを続けていると本当に寝る時間が確保できなくなるので、思い切って「先に寝て早く起きる」という時間配分に変えたのだ。その結果、わたしは”夏の終わり”を視認することとなったのである。

 

今思えば、お盆の頃にはもうすでに「夏」は帰り支度を始めていた。それまでは、午前4時にはブラインドの隙間から白みが差していたのが、ここ最近でのその時間は「まだ夜」といえる。さすがに4時半くらいには朝の到来を感じるものの、これはもはや一大事である。

2週間前、わたしは「未だに真夏ではない」と思っていたのだが、その言葉どおり、まだ本気の夏衣装を身に着けてはいない。にもかかわらず、午前4時が夜となると・・本来「朝」であるはずの4時が「夜」ということは、もうすでに夏は終わったことを意味する。

 

(言われてみれば、なんだあの蝉の声は!今にも息絶えそうな弱々しさではないか・・)

音の異変は蝉だけではない。早起きの象徴たる鳥たちも、今となっては5時を過ぎないとさえずらないのだ。要するに、わたしは夏を満喫し損ねたのである。

 

この驚愕の事実に言葉を失いつつも、「いつか片付けよう」と山積みにしてある冬物のパーカーやトレーナーに目をやった——アレ、しまわなくてよさそうだな。

 

 

来週になればもう9月ということで、暑さは残るだろうが数字的にも雰囲気的にも完全に「秋」が来る。

そういえば、自分の中での決め事で「今年着なかった衣服は捨てる」というルールを持っているのだが、今か今かと出番を待ちわびていた真夏の衣装たちは、「着なかった」というより「着せてもらえなかった」わけで、これは捨てるに値しないと判断してもよろしいだろうか。

 

(あぁ・・タイミングを逃したばっかりに、楽しみを満喫することなく終えてしまったわけか)

これはまるで、楽しみにとっておいたデザートを、満腹で食べられないのと同じである。こうなることを危惧して、いつでもデザートから先に食べてきたというのに、夏に関しては完全に見誤ったわけだ。

 

薄明るい午前5時、冷蔵庫から賞味期限切れのカットスイカ(大)を取り出すと、肩を落としながらもシャクシャクするわたし——スイカがあるうちは、まだ夏ということでいいだろう。

 

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