「めんどくさい」を貫いた結果

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面倒くさがりの頂点に君臨するわたしは、よほどの緊急性や重要性がない限り、物を購入する目的で店を訪れることはない。唯一の商売道具といえるパソコンですら、度重なる不具合やバッテリーの劣化が顕著になるまでは、重い腰を上げなかったわけで——。

それゆえに、ずっと「欲しい」と思いながらも後回しにしてきたアイテムがある。それは、メガネだ。

強度近視のわたしは、日頃からコンタクトレンズを装着しているため、メガネをかけるのは朝起きてすぐか、寝る直前くらいのもの。コンタクトレンズの長時間装着が角膜に悪影響を及ぼすことは承知しているが、いかんせんわたしの度数(マイナス13)は、メガネではまとまな視力を出すことができないため、どうしてもコンタクトレンズに頼りっぱなしの生活となってしまうのだ。

 

そんなわたしは、度入りメガネを複数所持している。しかもそのほとんどがいわゆる”高級メガネ”というやつで、フレームだけで10万円近くする代物ばかり。

無論、ブランド名のせいで高額になっているだけなので、フレームが純金でできている・・なんてことはない。だが、わたしが選ぶデザインがいつもフチの太いものばかりなので、そこへはめ込むレンズの質量も必然的に増えることから、結果として”高重量のメガネ”が出来上がるのだ。

そのため、ノーズパッドがじりじりと食い込み、鼻は痛いわ跡はつくは色素沈着するわの「三重苦」に見舞われるのであった。

 

そんな苦痛から解放されるべく、わたしは「安いメガネ」の購入を検討していた。安いメガネの商品価値は、軽さと安心感にある。どれほど分厚いフレームだろうが、高級メガネと比べると圧倒的な軽さを誇る安いメガネは、装着したまま寝てしまったとしても罪悪感がない。

これが高級メガネだと「しまった・・耳にかける部分が曲がった気がする!」などと大騒ぎになるが、安価で購入したメガネならばそのあたりは気にならない。だがその反面、さすがは安物——突然、ポロっとレンズが落ちて何も見えなくなることも。

もちろん、そうなったとしても心配無用。適当にはめ込んでテーピングで貼りつけておけば、なんら不自由なくメガネとしての機能と果たすわけで。

 

このような事情から、「シロガネーゼがテーピングメガネ・・というのは、いかがなものか」という物議を醸す恐れを考慮したわたしは、「いつか(安い)メガネを買い直したい」と思い続けて数年が経過したのである。

 

 

「・・お、J!NS(ジンズ)だ」

移動途中の暑さから逃れるべく駅ビル内を通過していたわたしは、安いメガネ・・いや、お手頃価格のメガネで有名な「J!NS(ジンズ)」を発見した。ぱっと見ただけでも価格は一万円未満が多く、特殊レンズとなるわたしの場合でも一万五千円くらいで済みそう。

とはいえ、特殊レンズは”即日仕上がりが絶望的”という弱点があるため、改めて回収に訪れなければならない。だが、それを面倒くさがると次にメガネ店と遭遇するのはいつになるか分からない。ならばここで会ったのも何かの縁、一本買っとくか——。

というわけで、さっそく入店したのである。

 

池袋駅から私鉄で15分という場所柄も影響してか、店内は閑散としておりわたしが一人目の客となった。しかも、選ぶのがめんどくさいわたしはキョロキョロと物色しながら歩を進めた結果、店員が声をかけるよりも早くフレームを持参してカウンターへとたどり着いたのである。

「これください」

入店時にわたしと目が合った店員は、最初から最後までわたしを目で追っていた。そのため、一歩も止まることなくカウンターへ直行する途中で、まさかの「フレームを手に取る」という荒技をやってのけたわたしに唖然としていたが、気を取り直すとすぐさま視力検査のブースへと案内してくれた。

 

まずは「気球の画像」を見ながら屈折度数を測り、続いてランドルト環(Cの切れ目を答えるやつ)を用いた視力検査へ——。その際にわたしは、

「とにかく目一杯の視力を出してもらいたい。特に、パソコン上の文字さえしっかり読めればいいので、遠くがどうとか見え過ぎて気持ち悪くなるとかは度外視で、できる限りの視力を頼みます!」

と、担当者である若い男性ににじり寄ると、唾を飛ばしながら力説した。いかんせん、あれこれ気を使われたあげくに中途半端なメガネを作らされたのでは、時間もカネも勿体ない。加えて、そんなやり取りを煩わしく思うわたしは、予めこちらの要望を一方的に伝えることで時短を図ろうとしたのである。

そんな「並々ならぬ圧」に押された担当者は、

「わ、わかりました。やってみます・・」

と、哀れにも恫喝に従うしかなかった。

 

そんなこんなで5分足らずで視力検査を終えたわたしは、流れるように会計へと回された。かかった費用はフレームとレンズのみで、その他は一切無料のため、価格表通りの金額を支払うと交換券を受け取り店を出た。

 

入店から退店までおよそ10分——ここへ寄る前に乗ろうとしていた電車に、普通に間に合ってしまうじゃないか。

 

 

完成したメガネを回収する手間を考えると、そのめんどくささに気分がどんよりするわたしだが、それでもトータル10分でメガネを作れたことには満足している。

しかも、高級メガネ店ではこうもサクサクと進まないため、時短の観点からも安いメガネに軍配が上がるわけで、わたしは今までいったいなんのために高級メガネにこだわっていたのだろうか——。

 

とにかく、めんどくさがりには「安い、早い、軽い」の三拍子がフィットするんじゃないか・・などと思いながら、メガネを作ったにもかかわらず当初乗る予定だった電車に間に合ってしまう、わたしなのであった。

 

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