ビジネスマター

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わたしの性分とでも言おうか、何かを断る際に明確な理由を伝えるべきか迷うことがある。考えすぎかもしれないが、依頼を打診した、あるいはほのめかした相手に対して、「やっぱりごめんなさい」と伝えることが至極苦手なのである。

・・いや、これは誰でも同じかもしれない。例え仕事で採用の合否を伝える場合であっても、やはり相手のことを思うと少なからず気持ちは曇るもの。だからこそ機械的に、無味乾燥かつ他人行儀な定型文で不採用を伝えるのが、応募者へのせめてもの礼儀だと考えているのかもしれない。

 

無論、関係性の薄い相手ならばそれでもいいだろう。言ってしまえばもう二度と会うこともないのだから、「残念ながら、今回の採用は見送らせていただきます」という決まり文句でお別れすれば十分。だが、これからも関係性が続く相手の場合、どうしてもその先を考えずにはいられない。

そのせいで、やけに説明口調になったり逆に言葉が少なかったり、自分の本音を上手く伝えられない文面となってしまうのだ。

 

 

「これでどうかな?」

とある辞意を伝える文面を友人に見せたところ、ほぼ同時に彼からも「こんな感じでどう?」という提案のメールが届いた。わたしが作ったものと比べると、文字数にして三倍くらいはあるだろうか、弁護士である友人の巧みな技術と精度が光る、素晴らしい書面である。

それに比べてわたしのほうは、友達に遅刻の言い訳をするかのような、どちらかというと情に訴えかけるテイスト。その理由として、「あまりに理路整然と理由や事情を説明するのは、堅苦しさが逆に言い訳っぽく感じるのではないか」と考えたかえらだ。

ならばざっくりと、「どうしようもなかったんです」という気持ちを前面に出すほうが、人間味があって受け入れやすいのではないか・・というのが、稚拙かつ人情派なわたしのやり方なのだ。

 

だが友人は、「こちらの財務状況も踏まえて説明し、やむを得ない理由からお断りすることになった・・という旨を伝えるほうが、相手に対して誠意を示せるのではないか」と考えていた。

それはもちろんその通りなのだが、内情をさらけ出してまで必死に言い訳をしたところで、最終的には「だからゴメン」という結末が決まっている。であれば、晒す必要のないプライベートあるいは人為的な事情をあえて伝えることで、心理的に「それならば仕方がない」と思ってもらうほうが、殊に友人・知人レベルの関係性ならば不要な衝突を避けられるのではないか・・と、わたしは思っていた。

 

——そんなことを考えているであろう「わたしの心理」を察知した友人は、「俺はそう思わないけど、任せるよ」と言ってその場を離れたのである。

 

そもそも無機質に突き放すかのような断り方が苦手なわたしは、どうしてもウェットな対応となりがち。これが奏功することもあれば、逆に誤解を生むこともある。

無論、近しい間柄ならば相手の性格や懐具合も分かるので、具体的な事実よりも情に訴えかけるやり方のほうがすんなり受け入れられるだろう。だが、ビジネスマターの場合は、定量的なデータを示すなど客観的かつ合理的であり社会通念上相当と思われる理由・・いや、そこまで求める相手はいないだろうが、断りの理由となる具体的な事情を伝えることのほうが、礼儀でありマナーといえる。

 

(友人が言いたかったのは「財務面における現状を伝えるべき」ということ。ならばここは組み込もうか・・)

 

この文面を読む相手はわたしではない。よって、わたしが思う「誠実な辞意の示し方」が、相手にとってもそうである・・という確証はない。であれば、人情派のわたしと合理主義者の友人との合作のほうが、より間違いのない文章となるのではなかろうか——。

そう考えたわたしは、金銭的に余裕がない旨を織り交ぜた上で、こちらの身勝手な事情によりお断りさせていただく・・という内容の文章を作り上げた。そして改めて、わたしが独自に書いたもの——直接的な原因をオブラートに包んだ表現——と、友人との合作とを見比べたところ、なるほど、客観的にやむを得ない事情が把握できる分かりやすい文章になっていた。

 

 

自分の価値観や感覚はあくまで主観であるため、他人にとって必ずしも正解とは限らない。だからこそ、"辞意の表明"のような相手への配慮がより必要となる場面では、自分とは異なるタイプの意見を取り入れることがマナーなのかもしれない・・と、今さらながら学んだのであった。

とはいえ、あの文章を読んだ相手がどんな気持ちになったのかは、やはり当人でなければ分からないわけで、必ずしも「正解だった」とは言えないのだが・・。

 

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