6月末の深夜、一介の社労士は呟く。

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6月も終わりに近づこうとしているが、社労士にとって"6月の終わり"というのは、一年間で最もシビアな月といえる。なんせ、雇用されている者には直接的な影響はないが、労災保険や雇用保険といった「労働保険料の申告」が、年に一度この時期に行われるからだ。

これは、昨年4月から今年3月までに発生した"残業代や深夜割増を含む賃金と賞与、さらに交通費を合算した賃金総額"を元に、決められた保険料率を乗じて保険料を算出し、昨年度に概算(およその計算)で納付した保険料との過不足を調整した上で、昨年度の確定保険料と今年度の概算保険料を申告する・・という作業である。

 

・・などと文字だけで説明をすると、とてつもなく膨大な数字を処理しなければならないように思うだろう。だが実際には、毎月の給与を確認しているケースがほとんどなので、むしろボタン一つで計算できてしまうのである。

無論、顧問契約を結んでいない企業からの依頼の場合は、かなり面倒な作業が待っている。なぜなら雇用保険に加入している者・・つまり週20時間以上の労働者とそうでない者とで、分けて計算する必要があるからだ。

ちなみにひと昔前までは、64歳以上の雇用保険被保険者からは雇用保険料を徴収しない・・という、これまた面倒な仕分けをしなければならなかったので、労働者の生年月日の入力が必須だった。たとえ数十人規模の従業員数だったとしても、一から個人情報を入力しなければならない手間は、思い出すだけでも気が遠くなる作業だった——。

 

まぁそんなこんなで、日頃から関与している企業についての年度更新は、さほど大きな問題ではないのである。しかしもう一つ、社会保険の「算定基礎届」という手続きが、時を同じくして社労士にのしかかる"年イチのイベント"として待ち構えているのであった。

 

算定基礎届は、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入している者の保険料等級を決める手続きで、毎年4.5.6月に支給される賃金によって決定される。

算定基礎届の計算にも残業代や深夜割増、そして交通費などが含まれるため、同じ条件で採用された同期でも保険料等級が違う・・ということが起こりうる。そのため、毎年この時期の残業は"可能な限り"控えるのがベストなのだ。

・・などという当たり前の話は置いておいて、一介の社労士はとあるトラブルに直面していた。

 

ある企業では、1月昇給の労働者へ支給された賃金が、給与計算のミスにより昇給前の内容となっていた。それが5月に発覚し、6月支給の給与で調整されたわけだが、この「遡及支給」について企業側と意見が食い違ったのだ。

「遡及昇給は、昇給差額を支払った月が随時改定の起算日となるはずです」

担当者はこう言った。——たしかにその通りである。もしも1月に遡って昇給が決定した場合、その昇給差額分が支払われた月(今回なら5月)を起算日として、随時改定に該当するか否かを判断することとなるわけで。

 

だが今回は、1月昇給に関する労働条件通知書も交付済みで、給与計算のミスにより遡及精算するわけだから、昇給後の賃金額が5月に決まったわけではない。この場合、昇給=固定的賃金の変動があった"1月実績"の給与が支払われた時点から、すべての賃金を含む総支給額を元に確認しなければならないのだ。

ちなみに、これは「随時改定=月変」の場合であり、算定基礎届への記入は「遡及支払額」の欄へ金額を記入することで修正平均額を出すので、遡及支給額を分けておけば問題ない。

というわけで、今回のような「給与計算ミス」や「労働者からの通勤定期代の申告遅れ」など、固定的賃金の金額と変動月が決定していた場合には、当然ながらその月に遡って調整することとなるわけだ。

 

しかしながら、後から昇給が決まった場合の遡及支給については、差額が支給された月を変動月として、差額を差し引いた三か月の平均月額に似等級以上の差が生じるかどうかで月変チェックをするため、この辺りの認識がごっちゃになってしまうと面倒なことになる。それがまさに、いま起きている齟齬の正体なのだ。

——という案件の"説得作業"に、時間を費やしているのであった。

 

 

算定基礎届については、他にも「月の所定労働日数が17日以上を一か月とカウントする」とか、「パートタイム労働者で17日未満の勤務しかない場合は、15日以上の月があるかどうかで判断する」など、各人ごとに確認しなければならない条件があるため、年度更新のようにクリック一つで申請できるわけではない。

・・というわけで、今宵もチマチマと被保険者の名前とにらめっこを続けるのであった。

 

Illustrated by 希鳳

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