仕事の電話長時間耐久レース

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わたしは今、呆然としている。なぜなら、食べ物がないからだ。

今日はなにかと忙しかった。そのおかげで、クライアントとの電話をすべて後回しにしたところ、夕方から深夜まで途切れることなく通話し続けるハメ・・いや、ありがたく相談を受けることとなった。

その結果——。

 

 

近所のスタバにピットインすると、珍しく店内は空いていた。そこでわたしはひと気の少ない出入口付近に陣取ると、

「ベンティーサイズのほうじ茶&クラシックティーラテ、ホワイトモカ抜き氷少なめ」

「ベンティーサイズのホットカプチーノ、オーツミルクでブロンドエスプレッソ、ショット追加でぬるめ」

「グランデサイズのホットアメリカーノ、リストレットでぬるめ」

「ベンティーサイズのパッションティー、氷なしでハチミツ3周混ぜて」

という、URABEオリジナルのビバレッジをテーブルに並べた。

 

そしてまずは一件目の電話をかけた。今月支給の賞与一覧に、労働者から役員に変更となった者の名前が載っていたので、「税務署へ役員賞与の届出をしているかどうか」の確認をするためだった。

当初、社長は「昨年同様に」と言っていたが、当該役員へ昨年賞与の支払いはなかった。ちなみに一昨年は労働者であったため、賞与の支払いがあった。

(きっと勘違いしているんだな・・)

こういう場合、文字でのやり取りは逆効果を招く。誤解や勘違いという"絡まった紐"をほどくには、直接話すに限るのだ。

 

文字というのは時に冷酷で非道な印象を与える。少しでも柔らかくユーモアあふれる口調にしたくても、相手が友達ではなくクライアントとなるとそうもいかない。おまけに絵文字や顔文字など使おうものなら、それこそふざけているようにしか見えないわけで——。

よって、やはり電話で直接声を届けるのがベストといえる。その結果、やはり社長の勘違いというわけで、役員賞与は発生しなかった。

 

続いての電話は、私傷病で休職させたい労働者がいるが、休むことを拒んでいる・・という少々厄介な案件だった。しかしこの社長、さすがというかなんというか、電話の前に要件をキッチリまとめてLINEで伝えてくれたのだ。

そのため、傷病手当金について予め調べたり、就業規則の休職規定について確認したりと、準備万端の状態で電話をかけることができた。実際の会話では、細かなニュアンスを共有する程度で済んだため、口頭ならば一時間かかったであろう内容がものの5分で終了した。

(賢い人っていうのは、合理的でスマートなんだよな)

 

三件目は、「祖母を扶養から外すことについての相談」だった。——社労士のわたしに「扶養喪失の相談」ということは、社会保険のことだろう。だが彼の祖母は75歳を超えているため、社会保険の被扶養者という線は消える。となれば税法上の控除対象扶養親族のことか? しかしそれは、わたしではなく税理士に確認するべきだろうし、年末調整で一気に処理をしても構わないだろう。じゃあ、なんの話だ——。

ちなみにその社長は、ロジカルかつ無駄話をするタイプではない。普段はテキストでやり取りをすることがほとんどだが、ごくまれにこうやって電話での相談を持ち掛けてくるのだ。

 

「俺の扶養に入ったことで、なんらかの給付金が支給停止になったらしいんだよね」

なるほど、扶養は扶養でも、被扶養者の資格喪失でもなければ扶養控除等(異動)申告書の修正でもない話だ。なんらかの給付がなんなのかは、社長本人も「よく分からない」とのこと。彼も母からの又聞きのため、詳細が不明なのだ。

まず思い当たるのは「年金生活者支援給付金」だろう。だがこれは、同一世帯の全員が非課税であることが条件ゆえに、仮に社長と祖母が同世帯だったとしたら、そもそも支給されるはずがない。かつて支給されていたものが停止になったのだから、これではないはず。

ということは、国からの給付金ではなく市区町村によるナニカの可能性が高い・・臨時福祉給付金的な何かか?だがあれは時限措置ゆえにとっくに終わっている。

 

結局、われわれの会話からは明確な解決策は生まれなかった。それでも、祖母を控除対象扶養親族にした途端に、なんらかの給付が止まったことは事実であり、であれば扶養を外せば復活するのだろう。

とはいえ、「今日から扶養親族から外します!」と宣言したからといって、どうなることでもない。たとえば社会保険の被扶養者を削除するには、その都度申請をするわけだが、税法上の扶養親族は一年間の所得によって決まるわけで、途中で扶養から外すことに意味はないはず。

となると、どうすれば"なんらかの給付"が復活するのだろうか——。

(区役所に電話して確認するしかないか)

 

そして最後の電話は、「銀行口座から保険料が引き落とされている、海外居住者について」の相談だった。

国民年金は、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者が加入する制度だが、国外転出にあたり住民票を消除すると同時に、国民年金の資格も喪失される。そして、海外居住者が国民年金に加入したい場合は、在外任意加入という方法をとることで、国民年金の加入を継続することができるのだ。

ところが、本人を含む誰もが在外任意の手続きを行った記憶がない・・とのこと。ではなぜ保険料が引き落とされているのだろうか?・・ということで、社労士であるわたしへ相談するに至った模様。

(・・・わ、わからない)

 

 

こうして、およそ6時間におよぶ長電話の耐久レースが終わったわけだが、そんなことよりも、わたしは夕飯を食べ損ねたことを悔やんでいる。

スタバに入ってコーヒーを飲んだまではよかったが、閉店時間となり外へ追い出され、スーパーで買い物をしようと思ったが電話中のため断念。その後もケバブ店の前で電話を続けたが、結局、店は閉まってしまったのだ。

そのうち、スマホの充電が5パーセントとなたため、コンビニへ寄ることもなく帰宅。そしてすべての電話が終わってみれば、もはや日をまたいでいるではないか。

 

(とりあえず、昨日買ったカットスイカでも食うか・・)

 

Illustrated by 希鳳

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